「A案」決定は出来レースか?(提案書より)
2020年東京五輪のメインスタジアムとなる予定である新国立競技場。その新国立に採用された隈研吾氏の「A案」が、多くの問題を孕んでいることが明らかになった。聖火台の場所が想定されていなかったことに加え、天井部分に多くの木材が使われていることから、カビや変色が懸念される。さらには、競技場周囲を樹木が覆うため害鳥被害に加え、その維持管理にも多額の費用がかかると指摘されている。
その競合相手だった「B案」の設計者である、2013年に「建築界のノーベル賞」と呼ばれる米プリツカー賞を受賞した国際的建築家の伊東豊雄氏は、「建設工事がこのまま進めば、必ず負の遺産になる」と嘆いている。この案がなぜ選ばれたのか。
A案が採用されたJSC(日本スポーツ振興センター)の技術提案等審査委員会の審査は、7人の審査委員が1人140点満点の採点で、「事業費の縮減」、「工期短縮」、「業務の実施方針」、「環境計画」など9項目を点数化して競われた。
採点の合計点はA案610点に対し、B案602点。項目別にA案が上回ったのは4つで、残る5項目はB案が上回った。それでもA案が競り勝ったのは、「工期短縮」で27点もの差が付いたからだった(A案177点、B案150点)。伊東氏が首を傾げながら言う。
「A案、B案とも完成時期は同じ2019年11月末で提案しているので、これほど点数に開きが出る理由がわからない。採点結果があまりに不透明のため、今年1月、27点差の内訳を審査委員個別に開示するようJSCに求めましたが、“公表できない”とのことでした。
納得できないので再度同じ質問をしたところ、再質疑するのであれば、“政府苦情検討委員会に申し出ろ”といわれ、まるで“政府に楯突くのか?”という高圧的な姿勢のように感じました。
3月末には毎日新聞が7人の審査委員の個別採点についてJSCに情報公開請求したところ、審査委員の名前と採点部分がすべて黒塗りになって出てきた。何も情報が開示されなかったと同じです」
A案がB案より優れていた点はどこなのか──外部の人間には隠されているのである。伊東氏は審査の結果が出る前から、審査委員らに強い不信感を抱いていたという。
「審査委員はほとんどが大学教授で、2人の建築家以外は建築の全体像や敷地の歴史を語る力はなかったと思います。建造物の甲乙を総合的に評価できる審査体制にあったかどうか疑問です。私のチームには180もの質問が投げられましたが、どれも工期やコスト、技術に関わる微細な事項ばかりで、採用後に答えれば良いものが大半でした。
結果はご覧の通りです。言いたくはありませんが、最初からA案採用が決まっていた“出来レース”だったのでは、という疑念を今も抱いています。そもそも、コンペでは競合相手のプランに何か1つでも優れた点を感じるのですが、今回はそれがなかった。すべてにおいて勝っていたと思います。正直、あれほど審査がお粗末だとは思いもよりませんでした」(伊東氏)