値札の数字は「2万2900円(税抜き)」。BALMUDA(バルミューダ)製の「The Toaster(ザ・トースター)は究極のトースターとして話題を集め、軒並み数か月の入荷待ち。2015年6月に発売され2か月で初回ロットの2万台が先行予約で完売し、10か月たった今も品薄状態が続く。作家・山下柚実氏が東京都武蔵野市のバルミューダ本社を訪ねて、社長に質問をぶつけた。
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オドロキは高価格だけではない。私が興味を惹かれたのは、トースターの上部から小さじ一杯(5cc)の水を注ぐ、という風変わりなシステムだ。給水口に水を入れてパンを焼き始める。するとトースターの内部にモワモワッと煙のような気体が充満する。ヒーターが明るくなったり暗くなったり点滅を繰り返す。こうもせわしなく変化するトースター、見たことがない。
「運転が始まるとまず、注入した水によるスチームが充満してパンの表面を水の膜で覆います。水分は気体より速く加熱されるので、最初に表面だけが焼けるわけです」と企画から製品開発まで手がける寺尾玄社長(42)が解説してくれた。
「だからパンの水分やバター油脂成分、香りが閉じ込められてふわっとします。1秒ごとに温度を測定し、ヒーターを細かく制御して一つ一つ焼き上げていくのは、夏と冬、パンの個数や種類によって全て温度変化が違うからです」
つまり、従来のトースターとしてはありえないほど緻密な温度コントロールをしなければ美味しいパンは焼けない、というのだ。そのためにコンピュータを使い5つのモードを細かく制御している、と。
「だから2万円台の価格になりました。高級感を狙ったわけではなくて、本当に美味しいパンを焼くことをとことん追求した結果なんです」と寺尾社長。
では、水を入れて焼く、というアイディアそのものはどこから出てきたのでしょう?
「会社のバーベキュー大会がきっかけでした」と、また規格外の答えが……。バーベキューの炭火で焼いたパンが凄く美味しかったのだという。炭火にヒントがあるのではと実験を繰り返したが、美味しさはなかなか再現できなかった。
「ある時社員が、バーベキューの日は土砂降りだった、と思い出したんです。あっ、火加減以上に水や湿度が関係するのかもしれないと気付き、スチームコントロールの発想につながっていきました」
だが、トースターの開発を宣言すると、周囲は引いたという。今どき売れるのか、と。いったいなぜ、トースターだったのでしょうか?