9年前の第一次安倍政権当時、閣僚が事務所費疑惑で次々と辞任し、政権崩壊を早めた。参院選を前に国会で「ガソリン代」をはじめとする政治資金問題が取り沙汰されるなか、安倍晋三首相に近い、政治資金を監視すべき総務省の松下新平・副大臣にも事務所費を巡る「ヤミ企業献金」疑惑が浮上した──。
JR宮崎駅から2kmの徒歩圏内、宮崎空港にも車で10分という交通至便の住宅地に疑惑の舞台となったオフィスビルがある。ひときわ目立つ7階建ての建物の玄関前には、〈宮崎選出参議院議員 松下新平〉という顔写真入りの立て看板が置かれている。
このビルの2階フロアに松下氏の地元事務所がある。記者が取材に訪れた4月上旬、駐車場には支援者のものと思われる車がひっきりなしに出入りし、改選を迎える7月参院選に向けて活況を呈していた。松下氏の元公設秘書が証言する。
「ビルを所有するA社のP会長は熱心な支援者で、松下氏は地元に戻ると必ずと言っていいほど会長の自宅に挨拶に寄る。だから事務所は格安の家賃で、2階のワンフロアを使わせてもらっています。松下氏は『企業献金は受けない』と宣言している政治家ですが、親しい企業もあるんです」
見落とせないのは「格安の家賃」だ。政治資金規正法では、相場より低い家賃で事務所を借りた場合、差額は「献金(寄付)」と見なされ、政治資金収支報告書に記載しなければならない。
このビルには松下事務所と別のフロア(同じ床面積)に空きがあり、不動産情報サイトなどで公開されているテナント募集では、家賃は「月額25万円(税別)」。坪単価でみても近郊のオフィス賃料の相場といえる。
それに対して、松下氏が代表を務める自民党宮崎県参院第一支部の政党助成金使途等報告書を調べると、松下事務所がA社に支払っている家賃は月額5万2500円(消費税率8%になった2014年4月分以降は5万4000円)。月額25万円の物件が「5万円」だから相場の5分の1だ。
松下氏の他の政治団体の収支も確認したが、他に家賃は計上されていない。となると当然、松下氏は差額の月額20万円を、ビルを所有するA社からの寄付として収支報告書に記載しなければならないはずだが、一切記載されていない。政治資金オンブズマン共同代表の上脇博之・神戸学院大学法学部教授の解説。
「相場より安い家賃で入居していれば、差額は物件を所有する企業からの『金銭によらない寄付』にあたる。寄付として届け出ていなければ政治資金規正法違反の疑いが濃厚です」
ましてや、松下氏は自身のHPに「企業・団体献金は受け取らない」と謳っている。「隠れ献金」は有権者への背信行為になる。使途等報告書から計算すると、家賃と相場の差額の総額は2011年からの4年間で960万円に達する。