4月14日夜9時26分に発生した大地震の後、熊本県益城町に住む坂牧正敏さん(65才)は、自宅向かい側にある駐車場に家族と共に避難した。M6.5、最大震度7。幸い、正敏さんの家は外壁などのひび割れ程度ですんだが、周囲ではいくつもの家屋が全壊していた。
翌日、余震が続くなか、妻と息子夫婦は別の避難所へ移動した。だが、正敏さんは家のことが気になり、ひとり残って中の様子を見に行った。
「止まっていた電気が夜になってつくようになっとったです。それで、家のほうが安全かと思って、(愛犬の)クロを連れて家に入ったんですよ」
その5分後、自室のソファに座ってテレビをつけたその時、予想だにしなかった激しい揺れに襲われた。気づくと家の一階部分がペシャンコに潰れ、正敏さんは身動きがとれなくなっていた──。
16日未明1時26分に発生したM7.3、最大震度6強の大地震。実は14日の揺れは「前震」で、今度の揺れが「本震」だった。本震は熊本県の布田川断層帯による直下型地震とみられている。地震による犠牲者は47人、負傷者は熊本と大分の両県だけで1100人以上にのぼり、避難者は約20万人に及んでいる(4月20日現在)。
真っ暗闇の中、左足に木材がのり、身動きのとれない状態で激しい不安と恐怖に襲われた正敏さん。余震でさらに家が崩れたら、命はない──その窮地を救ってくれたのは、愛犬のクロだった。
「クロはどうにか家の外に逃げ出して、家の前でキャンキャンと懸命に吠えよったとです。それに気づいた近所の人がやってきて、声をかけてくれました」(正敏さん)
クロは11年前に息子の嫁が友人からもらった雑種犬。いつも散歩に連れていってくれる正敏さんにいちばんなついていたという。激震から1時間後、救助が来た。家族とクロは閉じ込められた正敏さんに声をかけ続け、午前4時前、ようやく救出された。