俳優・三浦友和(64)が出演する映画『64─ロクヨン─後編』と、主演映画『葛城事件』が6月に立て続けに公開される。三浦は常に、一役者に徹しきる。大御所としてふんぞり返ることもできるだろうが、それをしない。
「最近は現場で最年長になることも多く、気を遣われることも増えました。撮影現場で立っていると、スタッフが走って椅子を持ってくる(笑い)。そんな必要ないのですが。それに僕は大御所じゃないですよ。少なくとも後輩たちはそう思っていない(笑い)。
僕らがデビューした頃は、大先輩と酒を飲むなんて畏れ多くてできなかったけれど、今は、普通に後輩たちから酒に誘われるし、こっちからも誘いますからね。カラオケ屋にだって行きます。歌? もちろん、歌いますよ。歌わずにじっと座っていたら、いい雰囲気が壊れちゃうじゃないですか」
いたって普通ですねと話を向けると、三浦は大きく頷いた。『葛城事件』で三浦が演じる男は家族を抑圧し、行動を強制する。口答えすれば殴る。家族は崩壊の一途を辿り、妻は精神を病み、長男は行き場をなくし追い詰められる。引きこもりだった次男は無差別殺傷事件を起こし、死刑囚に──。
「同じ人間ですから(笑い)。『葛城事件』の主人公だってそうですよ。この映画で起こることは他人事じゃありません。ひとつ歯車が狂っただけで、家族が崩壊してしまう危険を、誰もが抱えています。
三浦家がそうならなかった理由? 自分たちの子育てが正しかったとはいわないけれど、ひとつだけ考えられるとしたら、僕がイクメンだったからですよ(笑い)。子供が生まれた時、妻はマスコミに追い回されて外出できない。こっちは仕事がない(苦笑い)。だから夫婦二人でたっぷり子供たちと過ごせた。いってしまえば、偶然の産物。自慢できることじゃありません」
他人事じゃない──。しかし主人公のようなどうしようもない男に、自分を重ね合わせるのは並大抵ではない。
「逆ですよ。問題を抱えている男だからこそ共感できる。人間は皆、弱さを持っているんですから。一方、二枚目やヒーローは悩みがない。完全無欠です。ヒーローを演じるほうが大変です」
しかし、自分の中の「弱さ」を認めるのは、簡単なことではない。