インプラント治療は歯を失った人のための“切り札”として、日本中の歯科クリニックで行なわれている。
一般的なインプラント治療は、歯を失ったあごの骨に、ボルト状になったチタン製の人工歯根(インプラント体)を埋め込み、数か月かけて骨と結合させる。その後、セラミックなどの義歯を装着する。
〈自分の歯と同じように噛める〉
〈審美性が高く、周囲に義歯だと気づかれない〉
〈入れ歯のように毎日取り外す必要がない〉
などの謳い文句で、中高年にとって良いこと尽くめの治療法に見える。
しかし、実際のところトラブルや合併症はあとを絶たない。口腔外科医として長年インプラント治療を行なっている、おざわ歯科医院・小澤俊文院長。他のクリニックでインプラント治療のトラブルに遭った多くの患者が、小澤院長の元を相談に訪れている。
「インプラント手術は、口腔外科の高度な専門知識と技術、そして経験が必要です。しかし、講習会に参加しただけでインプラント手術を行なう歯科医が今も存在します」
ネジ状のインプラントの本体が上の歯を支える骨(歯槽骨)からすっぽりと抜け落ちて、それが副鼻腔(顔の内側にある空洞)に入り込んでしまったケースがあった。これは偶然に見つかったもので、インプラント手術を行なった歯科医は、20年間も手術ミスを患者に告げず放置していた。
診療報酬の抑制で経営難にあえぐ歯科医にとって、インプラントは“救世主”のような存在。自由診療のため、高い手術費用を設定できるからだ。インプラント1本につき20万~50万円と1回の手術で保険診療1日分の数倍を稼げる。
そこに目をつけた技術も経験もない歯科医が、「インプラント医」の看板を掲げていった結果、どうなったか。