いまや熱血指導という名の下でも、体罰は「絶対悪」の時代である。ただし一方の意見のみが「正義」とされる世の中は、何がしかの窮屈な思いを抱かせる。戸塚ヨットスクール校長で、指導中に生徒が死亡したことで非難を浴びた戸塚宏氏(75)は、今でも体罰肯定論者である。その意見に賛同することはできないが、現在の教育界の歪みを照射しているのも事実だ。ノンフィクションライターの中村計氏が訊いた。
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悪いことをしたら、戸塚ヨットスクールに入れるぞ。
1970年代から1980年代にかけ、そんな親の「脅し」が通用した時代があった。太平洋横断レースで優勝するなど世界的なヨットマンでもあった戸塚が、愛知県知多半島の小さな入江にヨットスクールを開校したのは、1976年のことである。
戸塚ヨットスクールは転覆しやすいヨットを使って、体罰も辞さない超スパルタ教育で技術を教え込んだ。また、合宿所で集団生活をする中で甘えを削ぎ、当時、社会問題になっていた登校拒否になった子どもや家庭内暴力で手の付けられなくなった子どもを更生させ、世間の耳目を集めた。
ところが70年代末から80年代初頭にかけ、訓練中の死亡事故が相次ぎ、1982年にはフェリーでの移動中に海に飛び込み脱出をはかった2名も命を失った。世間の目は賞賛から非難へと一変する。そして1983年、校長の戸塚を含むスタッフ13人は傷害致死の容疑で逮捕された。
長期裁判の末、戸塚はスタッフの中ではもっとも重い懲役6年の実刑判決を受けた。2006年に出所した戸塚は、押しかけたメディアの前で「今も体罰は教育だと思いますか」と問われ、敢然と言い放った。
「体罰は教育です」
この発言によって戸塚は、メディアから再び「悪」の刻印を押され、世間から葬り去られることになる。
──出所会見で、本音はどうであれ「思いません」と言ってしまった方が賢い選択だったとは思いませんか。
「だってね、体罰なしの教育でダメになって、うちで体罰を受けながら更生したヤツが大勢おるわけじゃん。そいつらに、どう言うの? 子どもが亡くなったのも、どう考えたって事故。こちらは、いいと思っとってやったんだから。体罰を否定したら、卒業生たちを裏切ることになっちゃうよ」
その信念は今も微塵も揺らいでいない。2012年12月、大阪市立桜宮高校のバスケ部で、監督から体罰を受けた生徒が自殺した事件でも、マスコミにコメントを求められたら、体罰肯定論を堂々と語るつもりでいた。
「体罰反対で日本中が盛り上がったじゃん。ああいうときこそ、うちを出すべきやろ。なのに(マスコミが)ぜんぜん来ない」
──断ったわけではないんですね?
「違う。むしろ、出たがっとるのに」