昨年6月に早期の膵臓がんで手術をした元横綱・千代の富士の九重親方(61才)。がん治療というと抗がん剤が勧められることが多いが、九重親方は抗がん剤を拒み、「四次元ピンポイント照射療法」という放射線治療の一種を選択したという。
「四次元ピンポイント照射療法」は、全国でも鹿児島県にある「UMSオンコロジークリニック」(以下、UMS)でしか行われていない。UMSは女優の樹木希林(73才)が治療に通っていたことでも知られる。
そもそも四次元ピンポイント照射療法とは、どんな治療法なのか。医療ジャーナリストの田辺功さんが説明する。
「X線による『放射線治療』の一種です。放射線治療は、放射線によってがん細胞を焼く治療法ですが、正常な臓器の一部にがん細胞がある場合、確実に治そうと思って大きく焼けば正常な細胞も死滅させてしまう。そのため副作用が起こり、体への負担も大きくなります。
ですから、どうやってがん組織だけに放射線を集めるかが、放射線治療の長年の課題でした。最先端の放射線療法は、病巣に対して四方八方から放射線を立体的に当てる『三次元照射』で、がん組織だけに放射線を照射しやすくなった。さらに呼吸によるがんの位置変化を追跡するという時間軸を加えたのが、四次元ピンポイント照射療法なのです」
体内の臓器は呼吸によって微妙に動いている。ピンポイントでがん細胞に放射線を照射しようとしても、この微妙なズレによってどうしても誤差が生じてしまう。その問題点を解決したのが、四次元ピンポイント照射療法というわけだ。
「呼吸によるズレに合わせて、角度を少しずつ変えてX線を当てていくので、より正確にがん組織だけを狙いうちできる。他の正常な組織を傷つけることが少ないので、患者の体への負担が軽くすみます。樹木さんが治療後すぐに仕事に復帰できたのもそのおかげでしょう」(田辺さん)
この治療法を構築したのは、三次元照射の第一人者であるUMSのセンター長・植松稔氏だ。植松氏はアメリカのハーバード大学で、脳転移したがんへの放射線のピンポイント照射法を学び、帰国後、講師として赴任した防衛医大で四次元照射ができる装置の前身となる機器を開発。1994年から肺がん、乳がんなどの放射線治療を始めた。
しかし、医学界には植松氏の理論を理解し、支持してくれる人がほとんどいなかったため、植松氏は医療機器メーカーや数名の専門医らとともに機器を独自開発していったという。