村岡歯科医院・院長の小林優氏
これまで『週刊ポスト』では、ジャーナリスト・岩澤倫彦氏による歯科治療のタブーに斬り込むシリーズ記事を度々掲載してきたが、全国の歯科医たちから賛否両論が噴出している。
そこで今回は、編集部や筆者に意見を寄せた、あるいはネット上で記事の批評を掲載していた歯科医を緊急取材。論争テーマへの率直な意見と、歯科業界の実状を本音で語ってもらった。それによって、見えてきたインプラントに関する問題の核心とは──。
まず今回、本シリーズへの見解を聞いた歯科医を紹介する。
埼玉の大月晃氏(大月デンタルケア・理事長)は、歯科医7人、歯科衛生士16人を擁する、大規模な予防歯科クリニックを経営する。筆者のSNSに批判的なコメントを書き込むと同時に「この業界には医療人としてのマインドが不足している人もいる」と心情を明かした。
神奈川の長崎祥吾氏(ワコ歯科・矯正歯科クリニック院長)は、文系大学を卒業してスーパーの野菜販売を担当した後、歯科医となった経歴の持ち主。「個人的に反論させて頂きたい部分がありますので、取材をして頂けないでしょうか」というメールを筆者に寄せた。
東京の小林優氏(村岡歯科医院・院長)は、歯を残す決め手となる根管治療のエキスパート。最新鋭のマイクロスコープなどを駆使、海外の歯科医との交流も深い。記事の主旨に一定の理解を示しつつも「歯科医の多くが、一生懸命にやりたくてもできないほど追い詰められている時代」と語る。
大阪の米畑有理氏(歯の花クリニック・院長)は、削らない治療をポリシーに、自由診療を基本とした女性スタッフだけのクリニックを経営する。「あくどい歯医者ばかりではありませんが、そういうことができてしまう仕組みが悪い」と複雑な心中をブログに記した。
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「8020運動」とは、80歳になっても20本以上自分の歯を保とうという、国と日本歯科医師会が推進している運動だ。多くの人がいつまでも自分の歯でみたい、と願っているはず。
シリーズ第2弾では、60代の女性が自分の歯を残したいと歯周病治療を掲げている都内のクリニックを訪ねたところ、上あごに残っていた8本の歯をすべて抜歯、オール・オン・4(※注/4本の人工歯根で上の歯の12本を支えるタイプのインプラント)という技法のインプラント治療になったケースを紹介した。
費用は360万円。さらに女性は10年後、インプラントの一部に破損を見つけ、補修に約100万円かかると知り、愕然としたという。
そのクリニックが作成した治療計画には、こう記載されていた。
〈一生に亘る心身の健康に役立つ根本的な治療〉
〈一生歯を残す原則 削らない(神経を)抜かないを守り通す〉