緑豊かな公園が隣接したそのコンサートホールには、その日、静寂と喝采が入り混じる特別な時間が流れた――。
8月28日、長崎『とぎつカナリーホール』に集まった700人の観客を魅了したのは、オーストリア・ウィーンを拠点に活躍するソプラノ歌手の田中彩子さん(32才)。彼女の歌声は「100年に1人」といわれる「Coloratura」。一般的なソプラノよりはるかに高音域で、「天使の歌声」「小鳥のさえずりのよう」などと、世界の音楽シーンで絶賛されている。
そんな彼女に密着した『情熱大陸』(毎日放送系)が6月に放送されるや日本でも大きな注目を集めている。
『情熱大陸』放送終了後には、田中さんのホームページにアクセスが殺到し一時サーバーダウンになったことがニュースとなった。2014年11月に田中さんがリリースしたCD『華麗なるコロラトゥーラ』は、ビルボード・ジャパン・トップ・クラシカル・アルバムのチャートで、約8か月ぶりに1位に返り咲いた。そして、このたび初めて出版したフォトエッセイ『Coloratura』(小学館)も話題になっている。
「彼女の魅力は、歌声だけじゃない」
そう話すのは、『情熱大陸』で田中さんの特集を企画したディレクターの申成晧さん。彼は田中さんを取材すべくウィーンを訪れた。
「最初に会ったときの印象は、良い意味で“普通”。モーツァルトのオペラツアーのヒロインに抜擢されたとか、奇跡の歌声の持ち主とか、華麗な肩書や略歴を聞いていたので、実際対面した彼女にはギャップを感じました」(申さん)
美しすぎるソプラノ歌手といわれているものの、話すと少し舌足らず。18才で単身ウィーンへ飛び立ち、今なおそこで生活しているため、日本語が苦手なのだ。またクラシックという華やかなイメージの世界に身を置いているが、本人はいたって自然体。申さんはたちまち彼女に魅了されたという。
実際の放送では、番組冒頭、田中さんが本番前の楽屋で外したブラジャーのホックが羽織っていたショールにひっかかったというシーンが話題になった。申さんが振りかえる。