定額動画配信サービスといえば、映画やドラマなどを好きなときに好きな場所で見られるサービスとして知られるようになった。今年はさらに、スポーツを見るサービスとしても広がり、試合観戦の選択肢のひとつとして定着してきた。利用者もサービスも増え、2016年はスポーツ観戦のネット中継元年となりそうな勢いだ。なぜ、いま大きな変化が訪れたのか。
「リオデジャネイロ五輪という大きなスポーツイベントがあったこと、3月にスポナビライブ、8月にDAZN(ダ・ゾーン)というスポーツのライブストリーミングサービスが始まったことが大きなきっかけになっています」とジャーナリストの西田宗千佳さんはいう。
「リオ五輪はNHKも民放も専用アプリを用意し、見逃した試合などを視聴できるようにしていました。大ヒットゲームアプリのポケモンGOに匹敵するダウンロード数だったと聞いています。この五輪をきっかけに、ストリーミングサービスの便利さに多くの利用者が気づきました。アンテナやテレビなど専用機材を用意しなければならない衛星放送と違って、最低限、スマホさえあれば楽しめる手軽さが新たなユーザーを生みました」
地上波で五輪の中継をしていたNHKと民放は「NHKスポーツ」と「gorin.jp」アプリをそれぞれ用意し、無料でライブ中継や見逃し配信を行っていた。12時間も時差があるため生中継を見るのが難しく、深夜の試合を朝、起きてからアプリで確認する人も多かった。また、日本向けの生中継では放送されなかったニュース、たとえばモンゴルのコーチが服を脱いで抗議したレスリングの試合を見逃し配信で確認した人も少なくないはずだ。
ソフトバンクとヤフーが共同運営するスポナビライブと、イギリスを拠点とするパフォームグループが運営するダ・ゾーンは、五輪用アプリと異なり有料サービスだ。しかし、スポーツにはお金を払ってでも試合を見たいファンが確実に存在するので、新ビジネスとして有望だと前出の西田さんは解説する。だからこそ、ダ・ゾーンはJリーグと日本のスポーツ界で過去最大となる10年総額2100億円という巨額の放送権契約を結び、2017シーズンから中継する。
「Jリーグもそうですが、バスケットボール、バレーボール、テニスや自転車、F1など、お金を払ってでもリアルタイムで試合を見たいファンが確実にいるのに、地上波のテレビではなかなか見られないスポーツがいくつもあります。彼らにとって、確実に試合が見られるサービスは有料でも待ち望んでいたものでした。また、かつてのネット中継は、テレビ中継のおまけのような扱いでしたが、テレビはないけれどスマホは持っている若者が少なくない今、ネットでのスポーツ中継は独立したビジネスになっています」(前出・西田さん)
かつて、ストリーミングサービスとスポーツ生中継は相性が良くないといわれることもあった。それはストリーミングという形式に理由があったのではなく、一度に多くのアクセスが集中することにネット回線が耐えられず、まともに再生できなくなることが原因だった。最近では、その問題も解消され、NFLの優勝決定戦スーパーボウルや五輪などにも耐えられるようになった。