9月2日、安倍首相はウラジオストクでロシアのプーチン大統領と夕食会を含めて3時間以上にわたって首脳会談を行ない、途中、「1対1の時間を取って議論したい」と申し入れて通訳だけを交え、北方領土をめぐる膝詰め談判を行なった。12月のプーチン大統領の訪日を控え、北方領土交渉が大きく動き出そうとしている。
戦争で奪われた領土を外交交渉で取り戻すのは極めて困難だ。1956年、日本は鳩山一郎内閣の「日ソ共同宣言」で平和条約締結後に旧ソ連が歯舞、色丹の2島を日本に引き渡すことをいったんは合意したものの、その後、何度も公式・非公式の政府間交渉を重ねながら返還は実現していない。
安倍首相は政権に返り咲いた直後の施政方針演説(2013年2月)で「最大の懸案である北方領土問題を解決して平和条約を締結すべく、腰を据えて取り組む」と表明し、交渉を重ねてきた。
大きな転機となったのは今年5月のソチ訪問だった。ロシアはウクライナからのクリミア併合(2014年)を批判されて国際的な経済制裁を受けている。伊勢志摩サミットを控えた5月、安倍首相はオバマ米大統領が電話で「行くな」と自粛を求めたのを振り切ってソチを訪問、プーチン大統領との首脳会談で8項目の経済協力と領土問題の「新たなアプローチ」を提案した。
「プーチンは食いついてきた」──官邸筋はそう振り返る。
プーチン大統領からもサインが送られてきた。ウラジオ会談前の今年8月、大統領府長官を交代させ、外交官出身のアントン・ワイノ氏を抜擢した人事である。ワイノ新長官は在日ロシア大使館勤務があり、日本語が堪能な人物だ。これを「プーチンのサイン」(官邸筋)と受け止めた安倍首相は急遽、「ロシア経済分野協力担当相」を新設してウラジオに同行する側近の世耕弘成・経産相に兼務させた。
こうしてウラジオで14回目となる安倍―プーチン会談が行なわれ、「2人で政治決断をしよう」と呼び掛けたのである。