“原チャリ”の愛称で親しまれ、1970年~1980年代には年間200万台も売れていた排気量50ccの原付バイク(原動機付自転車)。当時、ホンダ、ヤマハ発動機の2大メーカーが激しく販売競争を繰り広げた様は「HY戦争」とも呼ばれたが、その市場はいまや37万台にまで落ち込み、風前の灯火となっている。
そんな中、ヤマハ発動機は主力の『ジョグ』『ビーノ』の生産をやめ、最大のライバルだったホンダに生産を委託するという驚きの決断を下した。
10月5日に記者会見した渡部克明・ヤマハ発動機取締役常務執行役員(MC事業本部長)は、〈このままでは事業継続が難しかった〉と、苦しい経営事情を明かした。
ここまで原付バイクの需要がなくなってしまった理由は、人気の座を電動アシスト自転車に奪われたことが大きい。
免許不要、ヘルメット不要、税金がかからない──といった手軽さから、近距離の移動手段として購入する層が増えた電動自転車。年間の出荷台数は2003年の20万台から2015年には50万台と、あっさり原付バイクを逆転してしまった。
電動自動車のブームに火をつけたのが、ヤマハ発動機が1993年に発売した『PAS』だったことを考えると、自ら原付バイクの市場を侵食してしまったとの見方もできるが、自動車ジャーナリストの井元康一郎氏は、「以前から原付バイクが乗り物として本当に魅力的なのか議論はあった」という。
「日本ではクルマの普通免許があれば乗れるバイクが50ccまでということもあり、日本特有の“原付文化”が築かれていきましたが、50ccは小さくてパワー不足なうえに、さほど燃費も良くありません。
また、公道での制限速度が30kmと遅いがゆえに、すぐにスピードオーバーで警察に捕まったり、後方からトラックに巻き込まれたりとリスクがつきものでした。そこまでして原付に乗るくらいなら、『電動自転車で事足りる』と乗り換える人が増えるのも当然です」
世界の小型二輪市場を見渡せば、いまや125ccクラスが主流のため、「国内メーカーは商売にならない“ガラパゴス”の原付市場を諦め、世界の趨勢に合わせて排気量の大きなバイクに経営資源を集中させていきたい」(自動車業界関係者)のが本音。ヤマハ発動機が原付生産から事実上撤退するのも、その布石といえる。