今、がん治療には大きな希望が生まれている。世界中が「夢の新薬」として「免疫チェックポイント阻害薬」(商品名・オプジーボ)に注目しているからだ。
最近、この「オプジーボ」という言葉を耳にした人は多いかもしれない。10月上旬、新聞各紙が1面で一斉に〈オプジーボ25%値下げへ〉と報じた。オプジーボは画期的ながん治療薬だが、100mgで約73万円という価格の高さがネックだ。体重60kgのがん患者が1年間使うと年3500万円かかる計算になる。
そこで国はオプジーボの価格を来春にも最大25%引き下げる方針を固めたのだ。医学界が大きな期待を寄せるオプジーボとはどんな薬か。
従来のがん治療では、手術などの「外科療法」、放射線でがん細胞を破壊する「放射線療法」、抗がん剤を投与する「化学療法」が3大療法といわれてきた。ところが、最近では人間の免疫力を利用してがんを退治する「免疫療法」に頼る患者が増えている。
オプジーボは免疫療法の一種だ。これまでの免疫療法では、人間が本来持つ免疫細胞の攻撃力を高めてがんを撃退する治療法だったが、オプジーボは、「逆転の発想」を取り入れた。
「患者の体内では、がん細胞対免疫細胞の戦いが繰り広げられます。この時、がん細胞は免疫細胞の攻撃力を弱める『ブレーキ』を踏んでいます。オプジーボは、このブレーキを無効にして、免疫細胞の攻撃力を復活させる働きがあるんです」(医療ジャーナリスト・田辺功さん)
現在、オプジーボの保険適用は皮膚がんと肺がんの一種に限られている。その効果は絶大だ。悪性の皮膚がんでは、余命半年と思われた患者の体からがん細胞を消し去るなど、劇的な効果を上げている。また、米国の肺がん研究では、抗がん剤が効かない患者、または他の臓器から転移した末期の肺がん患者の死亡リスクを、既存の抗がん剤より4割減らした。
日本の有名人でオプジーボに命を救われたのは、森喜朗元首相(79才)だ。
「昨年、森さんは肺がんの除去手術を受けた後、再発が見つかって抗がん剤治療を始めたものの副作用に苦しみ、体調が悪化していたそうです。ところが12月に保険適用されたオプジーボを投与すると、徐々に体力が回復した。今年初めは自力で階段も上れなかったが、春ごろから急激に改善して現在にいたります」(全国紙政治部記者)
現在、東京五輪・パラリンピック組織委員会会長として小池百合子都知事と「対決」する森さんからは、重い病を患った様子はうかがえない。