お笑い芸人・バカリズムが脚本を務める『黒い十人の女』(日本テレビ系)に注目が集まっている。不倫という旬すぎるネタを、バカリズム独特の視点で斬りまくっている。その脚本の面白さについてコラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが綴る。
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秋ドラマも中盤戦に入る中、いわゆる“ドラマ識者”と呼ばれる人たちから絶賛を集めているのは、意外にも読売テレビ制作の深夜ドラマ『黒い十人の女』です。
『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)の秋ドラマ特集で、テレビ誌編集長、スポーツ紙の芸能担当記者、テレビ解説者の3人全員がイチオシにしたほか、『週刊ザ テレビジョン』の対談企画でも4人中2人がベスト作品に挙げました。木曜の23時59分~という深夜の放送だけに視聴率は3%台と高くありませんが、密かに注目度が高まっているのは間違いありません。
絶賛を集める最大の理由は、バカリズムさんの緻密かつ大胆な脚本。当作は市川崑監督が手がけた名作映画のリメイクですが、「ドラマプロデューサーの風松吉(船越英一郎)に妻と9人の愛人がいる」という設定以外はほぼ別物であり、2016年最大のテーマと言える不倫をさまざまな角度からぶった切っています。
驚かされるのは、“40歳の独身男性”であるバカリズムさんが、9人の不倫女性と1人の妻を見事に描き分けていること。
たとえば、何度も別れようと思って切り出しながら、けっきょく戻ってしまう24歳のテレビ局受付嬢・神田久未(成海璃子)=不倫をやめたい女。他の愛人を蹴落とそうと暗躍する34歳のドラマAP・八神美羽(佐藤仁美)=独占したい女。悪いのは男だから愛人全員と仲良くしようとする38歳の舞台女優・雪野佳代(水野美紀)=仲良くしたい女。9人の愛人がいると聞いても、甘い恋心が抑え切れない39歳の脚本家・皐山夏希(MEGUMI)=甘える女。イケメンの独身男性からも言い寄られて迷いつつ、2股になってしまう25歳の若手女優・相葉志乃(トリンドル玲奈)=揺れる女。
残りの5人も実際にいそうな不倫女性として描かれていますが、スゴイのはバカリズムさんの想像力。「独身アラフォーの芸人なのに、なぜ女心が分かるの?」という声もあがるほどの類いまれな観察眼に、強烈な皮肉と笑いのセンスを絡めて、おもしろおかしく不倫を描いているのです。