現代医学においても高血圧の原因を特定するのは難しい。血圧が下がらない人の9割は本態性(原因がわからない)ともいわれている。それなのになぜ、「塩分摂取が高血圧の最大の原因」といわれるようになったのか。
その発端は1954年。米国のルイス・ダール博士が、日本の青森を含む世界5地域で調査したところ、塩分摂取量の多い青森の高血圧発症率が高かったことから「塩分過剰が高血圧に繋がる」と唱えたことにある。白澤抗加齢医学研究所所長の白澤卓二氏が解説する。
「ダール博士の考え方は画期的だったので、またたく間に世界中に広まりました。そして1972年、米国のジョージ・メーネリー博士がラットに対して行なった実験をもとに、『毎日20~30グラム(人間でいえば厚労省の推奨値の約63倍にもなる500グラム相当)の食塩を摂取させたところ、10匹中4匹が高血圧になった』という論文を提出しました。これにより、『高血圧の犯人は塩分の過剰摂取』が世界中で信じられるようになったのです」
それから12年後の1984年、高血圧研究の権威として知られる元名古屋市立大学教授の青木久三氏が「塩分摂取量は血圧は関係ない」と異議を唱えた。
「青木先生はメーネリー博士の実験結果を『大量の食塩を与えられたにもかかわらず、10匹中6匹も血圧が上がらなかったのはなぜか』という点に疑問を感じ、塩分の『摂取』ではなく、『排泄』と高血圧との関係性を調べました。
『薄い塩水を摂取すると、浸透圧の関係で塩分を尿として排泄できなくなる』という原理を利用して、ラットを、真水を与えるグループと塩分濃度1%の薄い塩水を与えるグループに分けて30週間観察しました。すると、真水を飲んだグループは食事でどんなに塩分を摂取しても血圧が変化しなかったのに対し、塩水を与えられたラットは血圧が上昇して死んでしまったのです。
この結果から、青木氏は『食塩の摂取量は血圧に関係なく、高塩分でも体外に排出できれば血圧は上昇しない』としてメーネリー説を覆しました」(同前)