8月8日の“平成の玉音放送”で国民に生前退位の意向を伝えた天皇は、この議論の成り行きをどんな気持ちで受け止めているのだろうか──。
「憲法にもない生前退位をしたいと示唆されたのはいかがなものか」(平川祐弘・東大名誉教授)
「今回の『お言葉』が一種の先例のようになってしまうと、象徴天皇制を維持していく阻害要因になりかねない」(古川隆久・日本大学教授)
安倍首相が設置した私的諮問機関「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」(座長・今井敬経団連名誉会長)が行なっている専門家へのヒアリングで、生前退位に対する反対論が噴出している。
ヒアリングは11月7日から始まり、11月30日まで計3回、16人の専門家に天皇の生前退位について“意見”を聞くというもの。14日の第2回ヒアリングまでに11人が登場した。
そのうち6人は基本的に生前退位に反対で、高齢で天皇の公務に支障が出るのであれば、代わって公務を行なう「摂政」を置くことで対応すべきだという意見が目立った。4人は、今上天皇一代に限って生前退位を認める臨時措置法で対応すべきなど、“条件付き賛成論”と考えられる。
そうした特例法での対応ではなく、皇室典範を改正して、「今後、すべての天皇が譲位できるようにすべき」という、天皇の意に沿った立場を明確に表明したのは現在、皇室記者出身のジャーナリスト・岩井克己氏1人だけである。
確かに現在の法律(皇室典範)では天皇の生前退位(譲位)を認めていない。しかし、天皇のお言葉を受けて新聞各紙が行なった世論調査では、生前退位に賛成・容認が「91%」(朝日)、「84%」(毎日)、「81%」(読売)に達し、国民の圧倒的多数が高齢の天皇の思いを受けとめて法改正を求めている。
そうした世論の高まりで法改正を議論するために設置されたはずの有識者会議で、なぜか国民とは逆の専門家の意見が汲み上げられているのである。