「舞台袖から高座に上がるまで、歩こうものなら40分もかかっちまいますよ」──落語家・桂歌丸(80)は開口一番、会場の爆笑をさらった。背筋は伸び、声は前座の若手よりもハリがある。つい最近まで肺炎で入院していたとは微塵も感じさせない。しかし、鼻から延びたチューブはステージ後方にある酸素吸入器へと繋がれている。このものものしい機材を用意しなければ、高座に上がれないこともまた事実なのだ。この復帰の直前、歌丸は記者に「引退も考えている」と打ち明けた。
「正直、体調はあまりよくないですね。肺炎は治っているんですが、酸素(吸入器)がないと声が震えて落語にならない。静かにじっとしているぶんにはいいんですが、ちょっとでも体を動かすと苦しいんです。楽屋で着物に着替える時も、この酸素チューブをつけてないと無理なんですよ。
チューブをつけたまま高座に上がっちゃ、みっともない。でも、取ると『アゥアゥ』ってなっちゃう。声を取るか、見た目を取るか葛藤しましたが、最後はお客さんのためにチューブをつけることにしました」
再び高座に上がる心境を歌丸はそう語った。
昨年、『笑点』(日本テレビ系)を卒業してからも、体調不良と戦いながら落語を続けた。1月2日に肺炎で緊急入院すると、ファンからは体調を心配する声が次々と上がった。約2週間の療養生活を経て、再び帰ってきた歌丸。
これまで歌丸は「高座で死ねれば本望」と“生涯現役”を宣言してきた。しかし、度重なる入退院を繰り返すうち、少しずつ気持ちに変化があったという。本誌だけに明かしたその内容とは──。