NHKの『みんなのうた』で流れるある曲が話題になっている。半崎美子(36才)のメジャーデビュー曲『お弁当ばこのうた~あなたへのお手紙~』だ。愛情のこもった弁当を手紙代わりに、子供の成長をそっと見守る母の姿が描かれたこの歌が多くの人の心を打っているのだ。
北海道札幌市で生まれた半崎は、3人姉妹の末っ子。しっかり者の長女と破天荒なところがある次女に対して、「特別手がかかったわけでもないし、スポーツや勉強が特別できるわけでもないし、本当に普通の子(笑い)」と両親は声をそろえる。幼い頃は「初志貫徹」とは程遠く、そろばんにピアノ、ミニバス、お習字、演劇と、何をやっても続かない子供だった。
そんな半崎が初めて「これだけは」と譲らなかったのが歌だ。高校の学園祭のステージでDREAMS COME TRUEの『すき』を歌ったとき、観客の反応に手ごたえを感じた。その後大学に入学したが、誘いがあってクラブで歌うようになる。「自分の道はこれしかない!」と心を決めた。
「大学を辞めるって言って聞かないんです(苦笑)。“ようやくやりたいものを見つけた“と」
母親の静子さん(65才)は目を細めて当時を振り返る。
「健康なら、人に迷惑をかけないようにというくらいで、特別な子育てはしてきませんでした。ただ昔から常に“子供の味方でいよう“という思いはありました」
でもね…と、静子さんが笑いながら夫に目配せした。社会の荒波を渡ってきた父親としては、そんな茨の道へ大事な娘を送り出すわけにはいかなかった。
「今はダメだって反対しました。すぐに辞めるんじゃなくて、もう1年大学でがんばって、それでも同じ気持ちだったらいいけどって。でも本人は、“その1年がもったいない! どうしてもやりたい!”って譲らなかった」(父・光男さん)
結局3日間、父と娘のどちらかが折れることはなかった。4日目の朝9時頃。外は晴れわたる真っ白な雪景色。半崎は、背中を向けたままの光男さんに向かって「お父さん、東京でがんばるからね!」と声をかけ、スーツケース1つを持って、家を出た。
衝動に突き動かされるまま、あっという間に上京した半崎。何のつてもなかったが、その思いは真剣。上京前、父の説得にあたる一方で、住み込みで働ける東京のパン店をハローワークで見つけていた。
仕事は週6日。昼間は働き、夜は寝る間も惜しんで作詞作曲に精を出した。しかしそれ以外はまったくのノープラン。「さて、どうしよう?」と、北海道のクラブで歌っていた経験から、東京でもクラブの門をたたく。イベントで歌うようになったが、客は踊るのが目的で、合間に歌う半崎にファンがつくことはなかった。
上京して2年経っても成果はなく、家出同然で上京した手前、北海道にも帰りづらい日々が続いた。静子さんはときどき娘の元を訪れたり、電話で話すことも多かったが、光男さんはあの朝、背を向けたまま別れて以来、会っていなかった。
ある日、光男さんは東京出張のときに、娘が働いていると聞いていたパン店を突然訪ねて行った。