4月12日、全国各地の書店で、1冊の本が飛ぶように売れていた。店のいちばん目立つ場所に平積みにされたその本を手にとって、さまざまな世代の男女がレジに並ぶ──。
この前日に発表されたのは「2017年本屋大賞」。直木賞や芥川賞などのように選考委員が選ぶ一般の文学賞とは違い、全国の書店員の投票で選ばれるのが本屋大賞の特徴だ。2004年にスタートし、過去の受賞作はいずれもベストセラーになり、多くが映画化やドラマ化されている。
今年の受賞作は、恩田睦さんの『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)。1月に直木賞も受賞しており、初の“同時受賞”となった。恩田さんは本屋大賞受賞の喜びをこう話す。
「『蜜蜂と遠雷』で2度目の本屋大賞をいただけたのは、嬉しい驚きでしたし、たいへん誇りに思っております。なにもかもモニター上での検索が主流になってしまった現在、書店というところは、世界と時代を直に肌で感じられる、ますます貴重な場所になっていると思います。私はリアル書店でしか本を買ったことがありませんし、これからもリアル書店で本を買い続けます」
NPO本屋大賞実行委員会のメンバーで、賞の立ち上げにもかかわった丸善・丸の内本店の高頭佐和子さんが語る。
「会合などで親しくなった他の書店員たちと“この本が面白かったよ”といった話をしていて、でも、それをお客さまに大きく伝えられないもどかしさがあって。この賞はできるだけたくさんのかたに本と本屋を好きになってもらいたいという書店員の思いで作りました。まずは書店に来ていただいて、受賞作だけでなく、他の本も手にとってもらえれば嬉しいです」
その背景には「危機感」もあったと高頭さんは言う。活字離れ、出版不況が進むのと同時に、わざわざ書店に足を運ばなくても本が買える時代になった。だけど、ふらりと書店に立ち寄れば、ネットでは決してできなかった、思わぬ本との出会いがあるかもしれない。そんな書店の醍醐味を知らなかったり忘れている人が今、増えているのだ。
◆ 町の本屋は「貯金を切り崩して何とか…」
2003年度に全国に2万880店あった書店は2016年度には1万4098店とわずか十数年で約3割も減った。毎年500店以上が閉店し、昨年も668店舗が姿を消した。
今や書店が1つもない市町村が全国に332もある(日本書籍出版協会資料・2015年5月時点)。全国約1700の市町村のうち、2割近くに書店が存在しないことは、“町の本屋”が成り立たない厳しい現実を示している。
東京・代々木上原駅前に店を構える幸福書房は、広さ20坪ほどの典型的な“町の本屋”だ。開業して40年、小さいながらもきめ細かな仕入れで「大型書店にもなかった本がここで見つかる」ことも多いと評判だ。