映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、片岡鶴太郎が「終着駅」シリーズで主人公の牛尾正直刑事を演じるにあたって監督から言われたこと、そして監督の演出イズムをどのように理解しているのかについて、片岡自身が語った言葉をお届けする。
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片岡鶴太郎は1996年からテレビ朝日「土曜ワイド劇場」枠の「終着駅」シリーズで主人公の牛尾刑事を演じ続ける。監督は一貫して、かつては市川雷蔵の映画などを撮ってきたベテラン・池広一夫だ。
「監督からは『牛尾刑事は寡黙な男なんで、そんな感じでやってくれる?』と言われていました。それならセリフも少ないんだろうと思って台本を開いたら、とんでもなく多いんですよ。『寡黙だというのに、こんなに喋っていいんですか』と監督に言ったら『いいの』って。ようするに、『字面を見ると多いけど、それをおしゃべりだなと思わせないで、最終的に寡黙だと印象を与えればいい』ということです。
たしかに、牛尾刑事は無駄口を叩かないんですよね。その時その時に誠実に接していく。謎解きの場面のセリフは多いですが、感情を抑えて冷静に演じることで、あまり喋っていないようにしようと思っています。
池広監督は、今はこの一本だけを撮られています。年に二回。つまり、監督にとっては一年の全てがこのための日々なんですよね。出来あがった台本は監督の熱いメッセージの詰まったラブレターだと感じています。ですから、台本には一切何も言いません。『本当にありがとうございます』と監督に言って、毎回撮影に入っていきます」
2014年の『仮面ライダードライブ』(テレビ朝日)では、若い刑事たちを陰から支える課長役で出演している。
「主演の竹内涼真くんは芝居の経験のないまま来ているわけですよね。それに演技を付けて指導するのは監督です。そういう時、僕はいつも監督が彼に何と言っているかを聞いています。『これは僕に向かって言っているんじゃないか』と捉えると、自分のためになるんですよ。『これはこうしてくれなきゃ』というダメだしを『なるほど、そうだ』と自分に置き換えています。
年数を重ねてくると、監督も何も言わなくなってくるんです。ですから、若手に言いながらも『これはみんなに言っている言葉だ』と考える。そうすると監督の演出イズムが理解できますし、面と向かって言えない真意も伝わってくるんです」