【著者に訊け】辻村深月氏/『かがみの孤城』/ポプラ社/1800円+税
世界がまだ家と学校くらいでしかなかった10代の頃。「ここではないどこか」を切実に夢想した、全ての元少年少女に贈りたい物語だ。直木賞作家・辻村深月氏の最新刊『かがみの孤城』。主人公〈安西こころ〉は、入学早々、いじめを受け、不登校になった中学1年生。両親が勧めるフリースクールにも通えずにいたある日、自室の鏡が突然光り、彼女は奇妙な世界に誘われる。
そこには狼の面をつけた少女・自称〈オオカミさま〉と、やはり学校に行っていない6人の男女がいた。全員の個室もあるその城で、7人は願いを1つだけ叶えられる〈願いの鍵〉を探すよう命じられ、期限となる翌年3月までの約1年間を共に過ごすのだ。
誰かが願いを叶えた瞬間、3月を待たずに城は消えるというが、中学生にとって1年は驚くほど長い。それは成長するには十分な時間だったが、私たちはそんなことすら忘れていたのか?
「大人ってつい自分も子供だったことを忘れちゃうんですよね。生きてきた時間が長くなるほど時間が早く過ぎるといいますが、大人にはアッという間の1年が子供には耐え難い1年だったりする。そんな濃密な彼らの時間の機微をできるだけ丁寧にすくい取ることが、37歳の私が10代の生きづらさを書くに際して最も大事にしたことでした」
どこか御伽噺を思わせる設定に、辻村氏は鍵の在り処や城の謎などのミステリ要素を盛り込み、不登校やいじめといった社会問題にまで斬り込んでみせる。