名門校の教育から「大人」はなにを学ぶべきなのか。御三家の教育を取材したふたりのライターの会話から考えてみた。(取材・文=フリーライター・神田憲行)
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先日私は教育ジャーナリストのおおたとしまささんと紀伊國屋書店「武蔵と麻布、どっちが変?」というタイトルのトークイベントをした。おおたさんが最近、「名門校『武蔵』で教える東大合格より大事なこと」(集英社新書)という本を出版されて、「謎の進学校 麻布の教え」(同)という著書がある私とのカップリングだった。そのなかでのやりとりや、おおたさんの著書を読んで考えさせられたことを紹介したい。
「武蔵」とは東京都練馬区にある私立武蔵中等高等学校のことだ。中高一貫の男子私立高で、麻布、開成と並んで「御三家」と呼ばれる名門である。武蔵と麻布は自由な校風が似ていて、私も麻布の先生方から武蔵へのシンパシーを何度か聞いていた。
だがおおたさんとやりとりしていて、やはり武蔵には武蔵の流儀があるのだなとわかった。
たとえば入試問題である。武蔵の入試で算数の出題は、一問ごと手書きである。問題によっては筆跡が違うこともある。ちなみに入学後に渡される算数のオリジナルテキストも手書きだそうだ。
さらに合格発表後、問題の出題意図と模範解答、受験者の回答の傾向まで発表する。私立中学でここまで公表する学校はかなり珍しいと思う。
おおたさんによると、それは戦後からずっと続いている習慣だという。
「武蔵は『入試問題にこそ武蔵の教育観があらわれている』というプライドがあるんですよ。もともと武蔵って旧制7年制の学校で、12歳で武蔵に合格するとそのまんま帝国大学、今でいうところの東京大学にフリーパスで入れました」
「それが戦後、普通の中高一貫校になることによって、そのフリーパスがなくなりました。そこで一回低迷するわけです。で、そのときに、武蔵の先生たちは何をしたかっていうと、入試問題を近くの小学校に持って行って、『これが私たちが求めている、子どもたちの学力観です』っていって、そうやって一生懸命受験生を集めて、また進学校としての地位を築きなおしたという歴史があるので、いまもそれを続けているということです」