映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、1970年から約30年もの長い間、『大岡越前』を演じた俳優・加藤剛が、演劇に惹かれ、俳優座養成所で学んだ芝居について語った言葉を紹介する。
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加藤剛は1956年に早稲田大学に入学、役者としてのスタートはそこでの学生演劇だった。
「はじめから役者になろうとは思っていなかったんです。高校生の時に父の書棚にあったチェーホフの戯曲を読みましてね。読んでいるうちに白樺の林とか、ロシアの情景が自分の中でイメージできました。それで演劇の世界に惹かれていきました。
芝居の仕事がしたいと思って早稲田の演劇科に進学して、自由舞台という学生劇団に入りました。最初は裏方をしていましたが、段々と役者をやるようになっていったんです。その時に先輩方から、舞台で役者がその人の人柄を生きるということを指導されたのですが、役の精神を生きるというか、心を生きるのは難しかったですね」
その後、俳優座養成所に進み、本格的に役者への道に入る。
「俳優座養成所は先輩に勧められて入りました。役者になるということを決意や決心したということはなかったんですよね。ただ続けていたというだけで、結果的にそうなったんです。
養成所では、先輩たちの稽古場を外からですが見られたのが勉強になりました。千田是也さんや三島雅夫さんといった大先輩に、仲代達矢さんや平幹二朗さん。ですから教えてもらうというより、先輩たちを実際に見て、どうやって表現していくかということを学びました。
ただ、いちばんよく観て学んだのは、よそになりますが劇団民藝の滝沢修さんです。特に言い回しですね。せりふがお客様の心の中に非常に快く入っていくような、そういう喋り方や抑揚とか、魅かれましたね。影響を受けています」