今年の夏の甲子園で、春夏連覇を狙った大阪桐蔭は3回戦で宮城代表の仙台育英に敗れた。逆転サヨナラという劇的な幕切れとなった試合後、ネット上では勝利した仙台育英の選手の「あるプレー」が大炎上。その騒動後、当事者が初めて口を開いた──ノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。
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「あの件があって以来、野球をやめようと思ったこともありましたが、監督からも『続けた方がいい』と言われて……。このメンバーで、もう一度、野球ができた。それが本当に嬉しかったです」
10月7日、えひめ国体・硬式野球の初戦となる花咲徳栄戦に「2番・捕手」で先発出場した仙台育英の3年生、渡部夏史(わたべ・なつひと)は、敗れた試合後にそう話した。
この夏の甲子園で、1大会最多本塁打記録を塗り替えた広陵(広島)の中村奨成がナンバーワンのヒーローなら、大会期間中にネットで大炎上したアンチヒーローが渡部だった。
渡部が口にした「あの件」とその後の経緯を、まずはたどっていきたい。
8月19日、仙台育英が大阪桐蔭とぶつかった夏の甲子園3回戦、「0対0」と両者一歩も譲らずに迎えた7回裏だった。二死走者なしから打席に入った渡部の打球が、ショートに飛ぶ。大阪桐蔭の泉口友汰が軽快にボールをさばき、一塁を守る2年生の中川卓也はベースに右足をつけたままグラブを思いっきり伸ばして、泉口からの送球を捕球した。
直後、走り込んできた仙台育英・渡部の左足が、ベースを踏んでいた中川の右足を蹴り上げてしまう。中川は顔をゆがめてしばらく立ち上がることができなかったが、なんとかベンチへ戻り、その後も出場し続けた(このプレーで中川は全治1週間の打撲を負った)。
試合はその後、8回表に大阪桐蔭が1点を先制し、リードを保ったまま9回裏の守備を迎えた。二死1、2塁から、再び打球がショートに飛び、無難に捕球した泉口が中川に送球。観客やテレビの視聴者だけでなく、守る大阪桐蔭ナインも全員が試合終了を確信したはずだ。
ところが、中川はベースを踏み外し、慌てて踏み直すも判定はセーフ。これが呼び水となって仙台育英に2点適時打が飛び出し、仙台育英は優勝候補筆頭と目されていた大阪桐蔭にサヨナラ勝ちしたのである。