映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・加藤剛が、1970年から1999年まで続いた『大岡越前』(TBS系)や、NHK大河ドラマで平将門を演じた思い出を語った言葉を紹介する。
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加藤剛は1964年から時代劇シリーズ『三匹の侍』(フジテレビ)に丹波哲郎と入れ替わりで主演している。
「その頃の時代劇の殺陣は木で作った刀を使うのですが、僕たちはジュラルミンのを使いました。その方が実際に斬る時の重みが出るんですよね。
殺陣はそれまでやったことがありませんでした。殺陣師の方に払い方や手の使い方などの基本を教えていただき、あとは自宅で木刀を使って稽古しました。ほとんど毎日、体操するように素振りをしていましたね。その後で『剣』というテレビ時代劇に出た時は剣道を習いに警察の道場に通っています。その時は大変でしたが、やらないと上手にはなりませんから」
1970年に始まる『大岡越前』(TBS系)では主人公の大岡忠相を演じ、1999年まで続くロングシリーズとなった。
「あんなに長く続くとは思いませんでしたね。自分の中にそんなに長く住んでくれる役になるとは。1年か2年で終わると思っていたら、30年ですから。視聴率も30パーセントを取っていて、20台になったら『困ったな』と言われるくらいの人気になりました。それだけ視聴者の方が支持して、支えてくださったということです。
私としましても、観てくださった方が『明日も元気に生きよう』と思える清涼剤になればいいと思って毎日やっていました。
忠相は正義感の強い方で、権力者の立場にありながら庶民のことを思いながら生きた方だと思います。ただ、実際のその人物を見せようということではなく、あくまで書かれた作品のテーマをわかりやすく表現することに徹しながらやっていました。
時代劇をやる時は、もちろん時代劇の役者としてやらなきゃいけないこと、その時代に生きた人間として表現しなきゃいけないということはあります。でも、特別こうしようと思うことはそんなにありませんでした。毎回、少しでもいい作品にして、わかりやすく、面白くするということを一生懸命にやってきた。それしかありませんでした」