「平穏だった日常生活が東京都によって奪われようとしているんです。あれだけ“都民ファースト”を謳っていた小池百合子都知事(65才)には裏切られた気持ちしかありません。都民の声にちゃんと耳を傾けてほしいんです!」
こう怒りをぶちまけるのは榮倉奈々・豊川悦司のW主演で映画化された『娚の一生(おとこのいっしょう)』や『姉の結婚』などで知られる人気漫画家の西炯子(けいこ)氏だ。
京王井の頭線・永福町駅から徒歩10分ほどにある閑静な高級住宅街。緑豊かな公園では、子供たちが日が暮れるまで遊んでいる。近くを流れる神田川はソメイヨシノの桜並木が続き、両岸の遊歩道は川の流れや鳥の声に耳を傾けながら散歩やジョギングを楽しむ人の姿があり、朝夕は制服姿の学生やランドセルを背負った子供たちが駆けていく。この住宅街の一角に西氏の仕事場兼自宅がある。
「現在、神田川の治水対策のため、都は調整池を作る工事を計画しています。その工事は日常生活を脅かすほど大規模な上に、8年にも及ぶ。そんな長期間ただ耐えろというのはあまりに酷です。このままでは私たち、住民は暮らしていけません」(西氏)
これまで神田川流域では台風や豪雨による氾濫で浸水被害が発生してきた。2005年9月には1時間に100mmを超える豪雨によって、杉並区や中野区を中心に3000戸を超える浸水被害に見舞われた。そのため、都は各地で護岸整備や分水路、調整池による治水対策を進めてきた。
西氏が抗議する調整池もその1つ。完成予定は2025年度で、昨年10月までテニスコートなどに使用されていた広大な土地に、25mプール100杯分を貯水できる調整池が整備されるという。
西氏が同計画を知ったのは昨年7月上旬。その5か月前に都は説明会を開いたというが、周知されておらず、その案内に気がつく住民は少なかった。西氏宅に8月1日に行われる工事説明会のチラシが届いたのは7月に入ってから。
寝耳に水だった西氏ら住民が都に問い合わせると、その工事内容は受け入れがたいものだった。
西氏の自宅を含む、近所の住宅前を通る狭い道路が工事車両の搬入ルートに指定されており、そこを1日60台の10tトラックが往来する。さらに遊歩道を含む、神田川に杭を打ち、新たな道路を作り、そこも搬入ルートに。また自宅前の道路には高さ3mの防音壁が立ちはだかり、春には満開となるソメイヨシノも伐採されるという。