「ワシが川藤や!」。代打一筋19年、「浪速の春団治」といわれた元阪神タイガースの川藤幸三さんの爆笑インタビュー。第2回は「川藤、セ・リーグを叱る!?」。(聞き手=神田憲行)
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――川藤さんは阪神タイガースのOB会会長されているので言いにくいんですが、関東のスポーツ新聞で一面トップになるのがパ・リーグが多いんですよ。
川藤:まあ、情けないわ! 昔は「人気のセ、実力のパ」といわれたけれど、今は人気も実力もパやからね。パの三位に負けるとか、あり得へんやろ(笑)。(注・昨年日本シリーズはパリーグ三位でクライマックスシリーズ(CS)を勝ち抜いたロッテが制した)
人気でパ・リーグというのは、簡単な話、アマ時代に話題になった選手が集まってるからです。ダルビッシュ、田中将大、斎藤佑樹とか。昔は「何が何でも巨人に入りたいです」という選手が多かったけれど、今はそういう時代やなくなった。
――セはヤクルトの独走なんですが、チーム打率はそこそこあっても防御率は悪い(注・9月17日現在、チーム打率がリーグ2位、同防御率が4位)。なのになぜこの成績を残せるのでしょうか。
川藤:一年のリーグ戦みたらヤクルトにいっとるな。大きな逆転勝ちあるし、そんなん同点にすんのかとか、これはなんぼなんでも勝てんやろうというのをポポポーンと勝つ。なにかやっぱり大きな動きが出てきとる。野球には9回までの勝負所のポイントがあって、そのポイントを外すチームは負ける。ヤクルトは勝負所で点が取れる。一球にかける集中力と執念があるんや。
監督ちゅうのは勝たすために選手をどう気持ちよくグラウンドに送り出すかだけですからね。ヤクルトの連中の話をきけば、小川淳司監督を胴上げするんやという思いが伝わってきますね。監督だけが偉くてもアカンし、実力ある選手がひとりふたりいるというだけでもアカン。ヤクルトにはバントできる人間、自分を犠牲にできる選手もいる。
――そんなに小川監督は選手から慕われているんですか。
川藤:小川さんは二軍監督も長いから、チームの若手は二軍監督の時代から背中をじぃとみてきたわけやからな。だから若い選手が頑張ってるやろ。あの監督なにやっとんやあ、と疑問持ちながらやるのとは違うからね。
――一方の巨人と阪神はCS狙いの三位争い……。
川藤:情けないわね、三位争いとか。阪神と巨人は統一球に早いこと頭と気持ちの切り替えが出来無かったということでしょう(注・今年からプロ野球は統一球という低反発のボールを使用。ホームランが出にくいと言われる)。いちばん最後まで響いてきている。ホームラン頼みのチームだもん。逆にパリーグの実力投手は防御率1点代何人おるんよ。
ワシの時代かとひとりおるかおらんかぐらいやったで。逆に3割打者が少ない。昔なんか3割3分で首位打者。去年なんか3割5分や。今年は3割打ったら首位打者や。極端にいうたら5分違うんやから、どんだけピッチャーは攻めやすいか。ヤクルトはホームランで勝負するチームやないからよかった。
――選手個人に目を移しますと、かつての川藤さんみたいな破天荒な選手がいなくなりました。私は「川藤シート」のエピソードが大好きなんですよ。(注・1983年、球団から引退勧告を受けた川藤さんが「給料タダでもいいからいさしてくれ」と年俸の大幅ダウンで現役続行が決まったところ、関西の大物タレントたちが「じゃ俺たちが川藤の給料だそう」とヒット一本につき1万円を貯めて、シーズンオフに手渡そうとした。しかし川藤さんはそのお金で甲子園の年間シート席を購入して、身体障害者のファンを招待した。これが「川藤シート」と呼ばれた)
川藤:そういうてくれるのは嬉しいけれど、自分でシートこうて配ったりとか、施設に慰問とか、今の時代の選手の方が社会貢献が多いと思いますよ。
――でも今の時代の選手って、巨額の年俸を手にしてるじゃないですか。当時のクビなりかけの川藤さんの年俸と比べたら、金額の重みが違います。
川藤:あ、それはそうやな(笑)。でも世間が「重みが違う」とおもてくれたから、ワシも生きてこれた。これが計算でやっとったら、誰も「川藤ようやった」と思わないでしょ。底の浅い奴と世間も読むでしょう。川藤シートはワシのヒット一本を1万円貯めておいて渡すんやいうから、なんでワシが関係ない人様のカネもらわんとあかんねんやと断ったんや。そしたら芸人さんも「いったん出したカネは引き取られへん」いうから、じゃシート買うか、足りへんぶんはワシが出すいうて。カネないのに逆に出費になっとるからね(笑)。
【川藤幸三さんプロフィール】
1949年、福井県生まれ、62歳。福井・若狭高からドラフト9位で阪神入り。現役生活19年のほとんどを代打家業で送り、85年の阪神日本一にも貢献した。生涯安打数211、本塁打数16。現在はプロ野球評論家と建設会社社長という二足のわらじを履く。最新刊に「代打人生論~ピンチで必要とされる生き方~」(扶桑社新書)