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連載特別編 角打ち信者が一度は呑みに行きたい「総本山」

健さんの故郷、筑豊の風情漂う 高橋酒店


■七輪で炙ったサンマの味醂干しが、チラシで折った紙皿で

 4代目・高橋匡一(まさかず)さん(44)は、「お盆ぐらい店を閉めようよ」と、祖母に言ったことがある。帰ってきた返事は、「だめだよ。帰ってきたご先祖様が、店が閉まってたら心配するだろ」の一言だった。大正7年の創業以来、盆も正月も店を閉めたことがない。つまり、無休。「出張ついでに、ここで飲みたくて東京から来たんだというサラリーマンの方もいますからね」(匡一さん)

 今も元気にご両親が、阿吽の呼吸で手伝ってくれる。ちなみに、父・眞一さん(80)は、地元の東筑高校時代、俳優・高倉健の1年後輩だったという。「酒を飲まない人なのに、一度来てくださったって話を聞きました」

 そんな店の建物は、創業当時からそのまま。レンガ敷きの床は、代々の客に踏みしめられ、やさしく磨り減っている。柱は、七輪で炙ったサンマの味醂干しなどの煙が染み込んで黒光りしている。

「柱時計も、当時からのものです。ただし、一度修理に出したら、ギリシャ数字だった文字盤が、ローマ数字になって戻ってきたといういわくつきですが(笑い)」(匡一さん)

 歴史を刻んできたそれらすべてが、目の前を流れる、かつて筑豊の石炭を運ぶ五平太舟が行き交った堀川とともに、巧まざる演出となって、角打ち客を和ませる。

 さらに七輪の火は「炭より長持ちして、魚を炙るのにも暖を取るにも向いている」豆炭、つまみをのせる器はチラシ広告で折った紙皿という味わいだ。

「日暮れになると、駅から堀川沿いにここまで連なる居酒屋の赤提灯に灯が入るんです。そんな絵のような道をたどるうちに、ウキウキワクワクしてくるんですよ。ここに誘った意味、わかってくれますよね」そう得意げに語る牧野氏は、もうでき上がっていた。

■高橋酒店
【住所】北九州市八幡西区堀川町2-10
【電話】093-602-1818
【営業時間】9時~21時(日曜~19時、祝日~20時)無休。
ビール大びん360円、日本酒上撰200cc260円、半分140円など、麦焼酎250円、つまみはサンマの味醂干し130円、あったかい豆腐100円など。

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