かつてわが国の政治家は、権力を誇示する場として大邸宅を構えた。そこには吸い寄せられるように人が集まり、政治のダイナミズムが時代を転換させてきた。ここでは3人の宰相の私邸にまつわるエピソードを紹介しよう。
■岸信介・御殿場邸
1957年に首相に就任した岸を待っていたのは、日米安保条約改定と安保闘争への対応だった。連日デモ隊に包囲された岸は、首相官邸で実弟の佐藤栄作と死を覚悟したというほど追いつめられた。新安保条約の批准書交換日からほどなくして岸内閣は総辞職。安全保障を米国に委ね、経済に注力することでその後の高度経済成長の礎を築いたのは、この時の岸の「決断」によるところが大きい。
1970年に御殿場に居を移したが、ひそかに憲法改正と首相復帰を望んだという。現在は東山旧岸邸として公開されている。