「いつやるか? 今でしょ!」でお馴染みの東進ハイスクール現代文講師、林修氏。東大を目指すコースを中心に、予備校生から圧倒的な支持を得ている人気講師だ。トヨタのCMに出演後は、金スマ(TBS)にも登場するなど、昨今はメディアの注目も集める。20年以上、学生を見続けてきた話題のカリスマ講師に、昨今の若者や受験事情について聞いた。
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――長年、若者を見てきて、変わってきたなと思う点はありますか。
林:予備校に通う時点で、学生全体のほんの一部ですよね。僕が見ている光景がすべてではない、という自覚を常に持たなければいけないと思っています。ですから、僕が見えている範囲で、という前提の上で言わせていただくと、やはり変化はある。特に、男子にはもっと元気になってほしいですね。
僕が授業をしている東大コースで言うと、だいたい東大に行こうっていう時点で、既成の権威に頼っていると思うんですよ。もともと東大生は保守的で、これは僕のときもそうでした。安全志向、安定志向で、早めに人生の貯金をつくって逃げ切ろうと。競馬で言えば、先行逃げ切り型ばっかり。僕みたいに、いったん後方に下げて、そこから一気に勝負しようなんていう博打派はほとんどいなかった。こうした傾向が、最近ますます強くなってきたと感じますね。だから今の学生は、ものすごく勉強しますよ。
――では、学力は上がっているんでしょうか?
林:平均でいうと、明らかに落ちています。理由は単純で、少子化で学生の人数は減っているのに、大学の定員はそれほど減っていないから。だから東大でも、下のほうはかなり厳しく、大学側も危機感を持っているようです。ただ、上位10~20%は変わっていませんね。びっくりするくらい優秀な生徒は確実にいます。もうすぐ国立大学の二次試験ですけど、「俺、どう計算しても落ちようがない」とまで言う東大理III受験者もいますね。(笑)
――東大でも学力低下が問題になっているんですね。最近一部で、東大と京大の就職差が話題になりましたが、学力的にはいかがでしょうか。
林:受験勉強面だけで言えば、特に文系では、今や完全に京大は東大の下ですね。関西のおもろいヤツが京大に行くとか、そういう個性の面での違いはもちろんあると思いますけどね。
差が付いた原因はいろいろ考えられます。一つは、受験においても、東京一極集中が加速していることですね。情報化が進み、移動も便利になるなかで、東京だけが突出してしまった。僕は年200日ほど出張して、いろいろな地域を見て、それを実感しています。そんななか、京都の洛南高校とか奈良の東大寺学園とか、以前は京大合格者の人数を増やそうとしていた関西の名門校も、東大へシフトチェンジしています。
それから、一橋大学が上がっていることもありますね。これも東京一極集中が背景にあって、東工大なんかも上がっています。で、相対的に京大が下がっている。
もう一つ大きいのは、今の若者は、国立の医学部志望がものすごく多いんです。安定志向だから。
――つまり、医学部に行けば、将来、安泰だと。
林:食いっぱくれはないだろうと。例えば、一昔前なら京大の理学部に行っていたような子が、いまは大阪大学の医学部に行くんです。それで国立大の医学部に、優秀な人材が集中するようになった。一方、技術立国日本を支えてきたような理系の学部に、なかなか人材がいかない。国立の医学部に、のきなみ人材が吸い尽くされて、他大学が低下している。これは大問題だと思いますよ。
――なぜ若者たちはそんなにも保守化しているのでしょうか。
林:やはり、将来への不安が根本にあると思います。経済の先行きが暗いというのは、世の中のあらゆる面に悪影響を与えるんです。僕はバブル世代で、あのころは、一度失敗したって何とかなるさって思えました。しかし今は、先が読めない時代。若者が自分を守ろうとするのは、仕方のないことなのかもしれません。あれだけテレビでブレイクしているスギちゃんやキンタロー。でさえ、近い将来への不安を吐露しますよね。ああいう人が不安だったら、誰が自信を持てるんですかって。
でも、これは、我々の責任なんです。若者に希望を与えるのが我々大人の仕事ですから、我々の力不足。少しでも、なんとかしなければと思っているんですけど。
――先生もブレイク中ですが、不安はありますか?
林:僕は、今だけでしょう。でも、本業はしっかりやっていますから、不安はあまりないですね。ちなみに授業では「年末まで誰が残るでしょう。1.スギちゃん、2.キンタロー。 3.オレっ」って言っています(笑)。