戦後、日本の家族のかたちは大きく変わってきた。かつては多くの親族が同居する形態が多かったが、徐々に夫婦間の絆を重視した結婚スタイルが浸透。1970年代からは核家族が増加し、1980年代以降は「DINKS」と呼ばれる子どものいない共働き夫婦も注目を集めた。
昨今は、配偶者の一方(または両方)の結婚前の子供と一緒に生活する「ステップファミリー」と呼ばれる家庭も急増している。厚生労働省の調査によれば、「一方または両方が再婚」の婚姻件数は平成2年で13万2252件だったのに対し、平成21年では18万3254件。子どもを伴った再婚も増えているであろうことは、推測に難くない。
事業コンサルタントのI氏(41)も、そんなステップファミリーを形成するひとりだ。I氏は結婚4回目。子どもは2人めの妻との子である。いったいどんな家族観の持ち主なのだろうか。
「家族はエネルギーの源泉です。僕は仕事人間ですが、家庭がなければ能力は発揮できない。今までの離婚・再婚は息子を守るため。新しい子どもが生まれても同じように育てたい。その想いに賛同してくれたのが、今の妻です」(I氏)
I氏は、夫婦関係にもこだわりを持っている。「夫婦関係は、依存ではなく共存。一緒にいなくても生きていけるけど、一緒にいるともっと楽しい。そんな関係でいたいんです」(I氏)。これまでの結婚経験も、こうした考え方に基づいているといい、まさに “4度目の正直”といえそうだ。
I氏の例だけでなく、形態が多様化する現代の家族は、いったいどんな問題を抱えているのだろうか。家族カウンセラーの工藤英章氏によると、「家族の問題は世の中の問題の鏡。今の世情が作り出す問題と常にリンクしています」という。昨今では、金銭面の問題が家族に影響を与えるケースも増えており、安定していた家族間の関係性を変えてしまうこともある。
「ただ、こうした問題が発端となって、家族が今まで以上に安定した形を作ることもあります。夫婦の絆が強まったり、お父さんの思いを初めて知ったり。危機が家族の関係をリフォームすることもあるのです」(工藤氏)
昨今は労働環境も、昔と大きく変化している。20年間続いた不況とIT技術の進化に伴い、企業は経営合理化の名の下に人員削減を進め非正規雇用を増やした。一方で、男性社員にとっては女性の社会進出に伴い、相対的な求人の減少にも悩まされた。こうした環境は、どれも収入と無縁ではない。この時代に生きる父親ならではのストレスともいえるだろう。
「お父さんの心理的負担は確実に増えています。時に喧嘩をしても常に触れ合える家族、いつでも戻れる家庭は、お父さんのメンタルヘルス上、とても大切です。お父さん自身も、大黒柱であろうとする旧来の『男らしさ』を捨て去ることで、生きやすくなるかもしれませんよ」(工藤氏)
前述のI氏は、最近ひやりとすることがあったという。息子が私立中学に合格し、思いもかけず多額の現金を用意する必要に迫られたのだ。「息子のことと、お祝いや部下へのねぎらいなど人間関係のことは、できる限りのことをしたい。だから、お金のことは常に考えています。共働きの妻にも感謝しています。うちは名実ともに“財布はひとつ”ですよ」(I氏)
聞けばI氏、妻が毎日、財布に一定額の現金を「オートチャージ」してくれているのだという。クレジットカードは緊急用。日々の備えと、いざというときの備え。I氏の使い過ぎを防ぐために編み出されたというこの方法、4度目の結婚を支える妻の愛のかたちといえそうだ。
家族のかたちが変わっても、変わらないもの。それは「大切な人を守りたい」という思いなのかもしれない。そうした風潮を反映しているのか、ここのところ30~40代の人を中心に、三井住友銀行のCMがちょっとした話題となっている。20年以上前、街のあちこちでかかっていたスティーヴィー・ワンダーのメロディに乗せて、楽しそうにリズムをとったり、みんなでカレーを食べたりトランプをしたり……そんな家族の姿が映し出される。
あの歌が流れていた頃からずいぶんと年月が経って、家族が増えた人も多いことだろう。大切な人への純粋で温かな愛情が綴られた歌の内容に、愛情というものを改めて実感した人も多いのではないだろうか。
これからどんな未来がやってくるのかは予想不可能だが、“備え”はできる。万が一のときのための生命保険、住宅ローンの見直し、カードローン……さまざまな点から、家族と家族の幸せを守る手段を考えておきたい。