日常生活の中には多くの統計学や確率論が転がっている。子供のころに遊んだゲームや大人になってハマるギャンブル。もしかしたら男女の恋愛だって統計学に当てはめてみれば、変わった見方ができるかもしれない。『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社刊)の著者で、いま最も注目を浴びる統計学者の西内啓氏が、その魅力とカラクリについて語る。
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――西内さんが統計学から見出したゲームの法則などありますか?
西内:子供のときに、じゃんけんをして勝って人が階段を進むことができる「グリコ遊び」をしたことがある人は多いと思います。あれにも負けない法則はあります。普通に考えれば、グーなら勝っても3歩しか進めず、負ければ相手が6歩進むから少し損な気がします。チョキだと勝って6歩、負けても相手は3歩しか進めないから有利。パーは勝っても負けてもプラスマイナス6歩なので中立。
こう見ていくとチョキで勝つのがいちばんいいと思いますが、実は最適解はチョキをたくさん出すことではありません。これは単純な確率計算ですが、理論上負けない手は「グー:チョキ:パー=2:2:1」で出し続けること。これに気付いたのは高校生のときです。
――確率論に強い西内さんだけに、パチンコに行けば勝率も高いのでは?
西内:パチンコは過去に1回だけやりましたが、そのときに勝って以降、二度と行っていません。やはり、平均的には店が儲かるようになっていますし、行けば行くほど成績は平均値に近づきます。おそらく2度3度と行けば1回目ほどの成功を収め続けることは難しくなるでしょう。
――世の中には当選確率が高いと煽るギャンブルとか、あるいは「○キロ痩せる」なんてウソっぽい統計数字が独り歩きしている商品もよく見かけます。信憑性を見極める方法などあるのでしょうか。
西内:確かにまったく根拠のない商品はありますね。例えば、ブルーベリーは目にいいと言いますが、実際に人間を対象としてブルーベリーを食べた結果、視力が良くなるというような根拠を示す研究が公表されたことはありません。ブルーベリーに入っている成分を高濃度で実験動物に与えると、目の中の細胞に作用するという研究はありますが、われわれの体の仕組みがすべてネズミと同じとは限りませんからね。
また、脂肪を燃焼させて痩せる食品の中には、ずっと飲み続けて腹位の脂肪面積をCTスキャンで撮って測定したところ、何十平方センチ減りましたと謳う商品があります。でも、「ウエスト」で何センチ分かを計算してみると1センチもいかないレベル。そのくらいなら普段ビールを抜けばその程度は何もしなくても減るんです(笑い)。
結局は、本格的な統計学を学ぶもっと手前の思考術を学ぶしかありません。どうしたら示されたデータと実態に開きがあるかという論理学的な考え方です。最近では中学や高校でも統計学が必修にされているくらいで、基本的な考え方は大人であれば数学的な知識がなくても難しいものではありません。
――西内さんは過去に理系男子に向けた恋愛指南本も出されています。失恋をデータ化して次につなげるなど、恋愛に統計学活用できませんか?
西内:自分の恋愛をデータ化している人は気持ち悪いかも(笑い)。統計学的に実証された心理学の知見を自分で活かしてみるのはいいかもしれません。
例えば、人間には共感を中心にコミュニケーションするタイプと、客観的なロジックを中心にコミュニケーションするタイプがいるという研究があったりします。もし、理系学生が女の子と話が盛り上がらないとすれば、自分の得意なロジックだけじゃなく、相手への共感という観点で自分のコミュニケーションを考え直してみることもできるでしょう。
逆に共感型の男性がロジック型の女性を見たときの「男性社会の中で気を張って頑張ってるんだね」なんていう筋違いな共感は、かえって火種を捲いてしまうことにもなりかねませんが。
――いまは婚活ビジネスも盛んです。出会いの場に統計学の必要性は高まってくる気がします。
西内:いろんな事例や研究成果を活かして、客観的な尺度をつくるのは有効です。そこから導き出した値を使って、幸せな結婚と不幸せな結婚を分けているのは何かを分析できたら少子化も止まるかもしれません。自分の性格や趣味趣向などを照らして、「こういう人は好みだし、逆にこういうタイプの異性には好かれやすい」ことが分かれば、もう少しマッチングもうまくいくでしょう。
【プロフィール】
西内啓(にしうち・ひろむ):1981年生まれ。東京大学医学部卒業(生物統計学専攻)。その後、同大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教やダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員などを歴任。現在、調査・分析などのコンサルティング業務に従事している。著書の『統計学は最強の学問である』(ダイヤモンド社刊)は発行部数25万部を超えるベストセラーに。
【撮影】横溝敦