小麦、乳製品、冷凍食品……、7月に入ってから食料品値上げのニュースが続いているが、これもアベノミクス効果によるデフレ脱却の兆候なのだろうか? 商品(コモディティ)事情に精通するコモディティー インテリジェンス代表の近藤雅世氏は、次のように、円安の影響を強調する。
「昨年の9月から今年の7月までの10か月間で、約26%の円安になっているので、それだけで約2割以上価格が上がってもおかしくありません。とはいえ、原産地の天候に問題はなかったので供給量に対する心配はあまりなく、今後も価格が上がるとすれば円安の影響だけと考えられます」(近藤氏)
このような値上げ懸念は不動産業界も同じようだが、こちらは逆にそれが追い風となり、活況を見せているようだ。例えば、不動産経済研究所発表の2013年上半期の首都圏マンション(ファミリータイプ)市場動向を見ると、物件一戸あたりの平均価格は4736万円で、前年同期比4.8%増となっている。それでも、初月契約率は78.8%と高い水準にあり、需要も旺盛であることが分かる。不動産経済研究所取締役企画調査部長・福田秋生氏が解説する。
「供給量が2万4299戸で前年同期比17.1%増、初月契約率も前年同期比1.2ポイントアップしていますから、首都圏のマンション市況は需給ともに好調です。業界では、初月契約率が70%を超えると落成時に完売になるケースが多いと考えられており、ひとつの基準になっているのですが、2013年上半期は80%近いわけですから、かなり好調と判断していいと思います」
マンション市況が好調な理由については、物件価格や金利の上昇懸念が大きいと指摘する。
「これ以上、マンションの価格やローン金利が上がる前に買いたいという人が多いのだと思います。確かに、現在の価格と金利なら購入のチャンスと考えてよいでしょう。しかし、今後もし金利が3%を超えるような水準になってくると、確実に風向きが変わると思いますね」(福田氏)
住宅ローン金利については、大手銀行各行は10年固定型住宅ローンの金利を7月までの3か月間連続で引き上げていたものの、8月になって上昇基調が一服。少し落ち着いてきた気配だが、福田氏によると、依然として物件価格が上昇するための条件が揃っているのだという。
「土地については大手デベロッパーがどんどん土地を購入しており、例えば投資用のワンルームマンション業者が買うような土地まで大手が買っている状況です。たとえ地価公示や路線価などの数値は下がっていても、実際のマンション用地の取得価格は上昇傾向にあります。
さらに建築コストも上昇しています。建築資材が高くなっているという話も聞きますが、なにより建設作業員の労務費が高騰しています。とくに東日本大震災以降、被災3県では首都圏の3倍くらいの高い労務費になっていると聞いています。そのため、首都圏やほかの地域でも人手不足にならないよう、労務費が上がっています」(福田氏)
それでも、これらの条件が揃っているにもかかわらず、物件価格の上昇はそれほど大きなものにはならないと予測している。
「ピークだった2000年に約9万戸の供給があったわけですが、その頃の需要を支えていたのは団塊ジュニア世代です。日本人の人口構成で分厚い層をもつこの年代の人々は、この時期に一定レベルが住宅を購入しており、現在の需要は年収的に当時より低い人たちが多いようです。ですから、その人たちが購入できる金額には限界点があり、それを無視して土地代や建築コストの上昇分を物件価格に反映すると、エンドユーザーに無視されてしまうでしょう」(福田氏)
物件の価格が横ばいで金利も現在の水準であれば、まだ買い時といえそうな状況だが、この状況は不動産投資においてもチャンスといえるはずだ。そこで、マンション経営などを通した資産運用についてアドバイスをしている株式会社リヴトラストの営業本部長・杉本一也氏に話を聞いた。
「マンション市況そのものは好調だといえますが、私たちの商材である投資用のワンルームマンションは、投資に適した土地が不足傾向で、あったとしても値段が高すぎるという状況です。そのため、仕入れが困難な状況にはありますが、ローンを組むことができる人にとっては魅力的な金利水準が続いているため、一定量の需要があります」(杉本氏)
投資用マンションは基本的に、住宅ローンの大半を居住者の家賃でまかなうことが多く、月々の実質負担をかなり低額(一般的には1万円以下)に抑えながら購入できるケースが多い。また、ローンを組む際に団体信用生命保険に加入するため、オーナーに万が一のことがあった場合は残債を保険会社が支払うため、生命保険代わりのように家族に財産を遺すことができる。さらに、現金などの金融資産に比べて相続税評価が圧縮されるため、相続税対策にもなる。
そうした魅力を感じて、マンション投資を始める人も多いようだ。しかし、誰でも投資できるわけではない。まず、住宅ローンを組めなければ話にならない。とくに銀行の審査が厳しい個人事業主などは難しい。そのためか、投資家の多くは一般的なサラリーマンのようだ。杉本氏も「3年以上の勤務実績のある年収500万円以上の給与所得者なら、まずローンを組むことは可能でしょう」と語る。
また、月々の家賃を払ってくれる居住者を確保できるかが重要なポイントになる。もし借りてくれる人がいなければ、月々のローンは全額本人負担となってしまう。
「だからこそ、投資用ワンルームマンションは立地が大事になります。例えば地方の方の場合、どうせ買うなら自宅の近くがいいと考えがちです。しかし、自分が住む場所ではないところに財産をもつわけですから、家賃を払ってくれる人がいなければビジネスとして成り立ちません。そのため、場合によっては家主から不動産会社が借り上げて第三者に転貸するサブリースという方法を選択される方もいます」(杉本氏)
投資目的で購入するなら、購入価格をできるだけ抑えてリスクを軽減したい。そのためには人より早く情報を入手することがポイントとなる。
「例えば、住居用のマンションなら上層階から予約がうまっていきますが、投資用の場合は下層階からうまります。なぜなら、下層階の方が低価格だから。投資用は自分が住むことを想定していないケースが多いですし、上層階でも下層階でもほとんど利回りが変わらないため、価格の低い下層階に人気が集まるわけです。この下層階の部屋を購入するためには選択肢の多い早期に決断することが必要ですが、そのためには新着物件の情報をいち早く入手できるメルマガなどに登録しておくとよいでしょう」(杉本氏)
マンションを買うなら今なのか? 取材を進めていくうちに分かったことは、住居用にしろ投資用にしろ、金利が低い今こそチャンスと判断する人が多いということだ。逆にこのタイミングを逃して金利が上昇すると、マンション市況に大きな変化が起こることが予想されるため、今後も金利の動向に目が離せない状況が続きそうだ。