そんな引波を前に、誰もがかろうじて踏みとどまっていた。家事だけが取柄の主婦・冬乃も、一時は漫画家として脚光を浴びた菫も。またどこか飄々とした佐々井や、恋人との結婚を夢見て就職した川崎にしても、人知れず謎や秘密を抱え、海辺の町で暮らしている。

「海を囲む形で住宅地や商店街やフェリー乗場がある、箱庭みたいな久里浜はいつか書きたかった町でした。当初はもっと純文学的に何気ない話を何気なく書こうとしたんですが、基本がエンタメ志向なんでしょうね。伏線を張りめぐらせて最後に回収みたいなことを、ついやりたくなるんです」

 冬乃が故郷を出た理由や、菫がなぜ久里浜に居座るのかは、終盤まで謎のまま。また、佐々井と川崎は、ある大口の取引再開を機に過労死寸前まで酷使されることになる。そして、社員を使い捨てにする魂胆の会社を、川崎は辞め、佐々井は辞めないのだ。

【著者プロフィール】山本文緒(やまもと・ふみお):1962年神奈川県生まれ。神奈川大学経済学部卒。会社員を経て87年に作家デビュー。1999年『恋愛中毒』で第20回吉川英治文学新人賞、2001年『プラナリア』で第124回直木賞。著書は他に『眠れるラプンツェル』『ブラック・ティー』『群青の夜の羽毛布』『落花流水』『アカペラ』、エッセイに『そして私は一人になった』など。154cm、AB型。

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2013年11月29日号

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