安倍晋三首相に接する関係者は、口を揃えて「最近の首相は感情の起伏が激しくなった」という。その原因は、間違いなく「安倍がもっとも畏れる男」小泉純一郎元首相の登場である。
小泉氏の「原発ゼロ」発言に、安倍氏はどう対峙するのか。本誌連載「幻の脱原発クーデター」などで原発政策を取材する森功氏(ノンフィクション作家)と、『官邸崩壊』でふたりの歪な関係性を暴いた上杉隆氏(ジャーナリスト)が緊急対談した。
上杉:やはり小泉さんは政治家としての皮膚感覚が優れていますよね。原発はできればメディアにとって扱いたくないテーマだけど、小泉さんが出てくるのならば取り上げざるを得ないでしょう。会見では「安倍総理がゼロっていったらそれに楯突く議員はほんの一握りだ」といった。つまり自らが断行した郵政民営化に重ね合わせてるんですよね。
原子力は日本の社会システムに組み込まれた強力な利権ですが、小泉さんの理屈は、「オレは郵便局という日本全国に張り巡らせたシステムをぶっ壊したからこそ、国民から人気のある首相として名を残せているんだ。君はそばで見てただろ。なぜ原発でやらないんだ」ってことでしょう。これは痛いところを突いている分だけ安倍さんにとっては嫌ですよ。
メディア的には「元総理連合」ができようとしていることが面白いでしょう。東京新聞に細川(護熙)さんが出て小泉さんに賛同し、さらに脱原発では菅直人さん、鳩山由紀夫さん、村山富市さんらが参戦できる。元首相が5人揃って安倍首相に対峙するという構図ができあがれば、メディア的に絵になる。
森:ただ、「お前がいうか」っていうのはありますよね。だって、そもそも原発推進を決めたのは小泉さんでしょう。エネルギー政策の転換期を迎えた2002年に、日本は核廃棄物の直接処分場を公募したけど、結局名乗りを上げたのは高知県の東洋町だけで、そこでも大反対が起きて頓挫した。
その時点で日本に直接処分場が作れないことははっきりしたし、高速増殖炉のもんじゅにしても、世界中で技術的に無理だと見放されていくなかで、それでも日本だけが続けていくことに決めた。つまり、一連のアメリカ型規制改革のなかで、「原発をエネルギー政策の中心に据える」という一大転換を首相だった小泉さん自ら決断したっていうことなんですよ。
そもそも、小泉さんの「原発ゼロ発言」のきっかけとなったフィンランドのオンカロ(核廃棄物最終処分場)視察は、原発メーカーが連れて行ったわけで、それは小泉さんが原子力に理解があるからこそ、力を借りたいと考えたわけでしょう。