医師でジャーナリストの富家孝(ふけ・たかし)氏の「不安定狭心症」の手術を録画し、執刀した「神の手」と称される心臓外科医・南淵明宏(なぶち・あきひろ)氏とともに実況中継するという企画が実現した。富家氏が、昨年12月26日の手術を振り返る。
* * *
手術は4時間19分。心臓バイパス手術としては非常に短い。私は、手術から数時間後にICU(集中治療室)で目を覚ましましたんですが、意識はとてもクリアで、術後の痛みもまったくなかった。
「お目覚めですか~」
南淵先生は、目を覚ました私を見てニッコリ。えらい余裕や。どうやら、私の心臓は彼にとっては与しやすい相手だったようで……。
「心臓やその周りの血管というのは、80歳でも丈夫な人もいれば、50歳でフニャフニャの人もいます。脂肪量や血管の太さも個人差がありますが、富家先生は筋肉、動静脈など身体全体が若々しく、手術しやすかった。元相撲部なだけありますわ」(南淵氏)
せやろ、体力にだけは自信ありますさかいな。
とはいえICUを2日で出られて計13日の入院で済んだのは名医の腕あってこそ。大概のバイパス手術患者はICUに1週間近くいますし、もし手術中にトラブルでもあれば、それだけ医療費がかさみます。
私の場合、入院・手術の費用は240万円程度でしたが、保険適用のため自己負担額は24万円ほどで済みました。あれほどの技を見せられると、「こんな安くてええんかいな」と思ってしまうほど。手術からまもなく1年ですが、おかげさまですこぶる良好。血色がよく肌もツヤツヤなので、心臓手術をしたというと驚かれます。
大好物の鍋物と一緒に焼酎など酒も大いに愉しんでいます。他にも嬉しかったのが、バイパス手術をしたら血圧がスッと下がったこと。詰まりが取れたという証ですね。ずっと服用していた降圧剤に頼らなくてもよくなりました。
「身体のどこかの血流が悪いと、心臓は一生懸命に血圧を上げて血液を流そうとする。高血圧はダメというけれど、やみくもに血圧を下げるよりも、なぜ血圧が高くなったか、その原因を探ることのほうが大事なんです」(南淵氏)
今や私は健康そのものやけど、あの時痛みを見過ごしていたら、どうなっていたかと思うと恐ろしくなりますわ。身体の異変にどうすばやく対処するのか──そこが分かれ道なのだと、身に染みます。