小泉純一郎・元首相の「原発ゼロ」発言は、政界や財界に波紋を呼んだだけでなく、世論にも大きな変化を生み出そうとしている。ただし、原発利権に群がる霞が関にとって大きな“痛手”となるだろうという見立てを官僚たちは鼻で笑ってみせる。
本誌名物の覆面官僚座談会では財務省中堅官僚A氏、経済産業省中堅官僚B氏、総務省ベテラン官僚C氏、防衛省若手官僚D氏に集まってもらい、小泉「原発ゼロ」発言をめぐる永田町と霞が関の暗闘を語ってもらった。(司会・レポート/武冨薫(ジャーナリスト))
──小泉元首相の「原発ゼロ」発言で安倍政権の原発推進政策に国民の批判が高まっている。官邸も経産省も火消しに懸命だ。
財務A:小泉発言が官邸に痛撃を与えたのは間違いない。何より外交戦略に響いている。
防衛D:外交ですか?
財務A:安倍外交の柱は安全保障、いわゆる中国包囲網づくりのためにASEANを熱心に回っていると思われているが、そうではない。官邸が重視しているのは経済的実利。
総理は主な訪問先で1か国につき数千億円から1兆円近いインフラ輸出の商談を進めている。その中心がベトナム、トルコ、インド、中東などへの原発売り込みであり、絵を描いているのは今井尚哉・首席秘書官(元資源エネルギー庁次長)を始めとする官邸と経産省の原発官僚たち。
彼らは、伊方原発(四国電力)や川内(せんだい)原発(九州電力)を年内に再稼働させ、「日本の原発は安全」と商談を有利にする筋立てを描いていたのに、小泉さんが「安倍総理が決断すれば即時に原発ゼロにできる」とぶち上げたために、総理も再稼働を言い出しにくくなった。さぞや腸が煮えくりかえっているはずだ。
総務C:たとえ日本が原発ゼロの政策を取っても、世界の原発メーカーは日立、東芝、三菱重工とフランスのアレバ連合が3大グループだから、メーカーは生き残るし、原発輸出ができなくなるわけではない。
しかし、いまや経産省には許認可権限がほとんどなく、産業界への影響力低下が著しい。残った唯一最大の利権が原発だから、原子力規制庁が環境省の下に移管されても権限を手放そうとしない。経産省は原発というより、省の存在意義を守ろうとあがいている。
防衛D:だとしても、小泉さんが原発ゼロを言い出した動機がわからない。
経産B:小泉さんは政界を引退した後、財界の出資で設立された国際公共政策センターの顧問を務めている。ところが、資金が底をつき、来年には解散に追い込まれるといわれている。追加出資の話も聞かない。やむにやまれぬ台所事情があるのではないか。