【著者に訊け】末井昭氏/『自殺』/朝日出版社/1680円/装丁/鈴木成一デザイン室
〈母親がダイナマイト心中したのは、僕が七歳のときでした〉と、最新刊『自殺』に書く末井昭氏の心の内を簡単には知り得ないように、末井氏もまた自殺を考える人にどう声をかけていいものか、慎重に言葉を選ぶ。そして、こう言う。
〈自殺する人は真面目で優しい人です〉
〈感性が鋭くて、それゆえに生きづらい人です。生きづらいから世の中から身を引くという謙虚な人です。そういう人が少なくなっていくと、厚かましい人ばかりが残ってしまいます〉
〈だから、生きづらさを感じている人こそ死なないで欲しいのです〉……。
年間3万人という数字や、安易な「死ぬな」でもなく、とにかく〈笑える自殺の本〉を身を削って書こうとする末井氏。そのまなざしこそ、とことん真面目で優しい。
〈感性が鈍くて図々しいから僕はこれまで生きられたのではないか〉とある。隣家の男と爆死した母の自殺や、バブル期に抱えた数億の借金苦。離婚・再婚と女性関係で揉め、鬱状態やがんにもなったが、自殺は考えたこともないという。末井氏はこう話す。
「僕が育ったのは岡山県の寒村で、母親が心中したことで白い目では見られましたけど、ダメはダメなりに生きていければいいやという、図々しい生命力みたいなものが植え付けられている気がするんですね。
借金もギャンブルで返そうと本気で考えていたし、結局踏み倒した部分もあるんで偉そうなことは言えませんが、少なくとも借金やイジメを苦に自殺する必要なんて、全然ないと思う」
故郷での生い立ちから、大阪~川崎の工員時代。グラフィックデザイナーを夢見て看板屋に就職し、大手キャバレーで太陽の塔のパロディ〈チンポの塔〉を制作した若き日や、荒木経惟氏や森山大道氏らを擁した伝説の雑誌『写真時代』や『パチンコ必勝ガイド』の名物編集長となるまでの、個人史からして波瀾万丈だ。
「世間的には『何をやってんだ?』って話ですけどね。特にチンポの塔は自分では傑作だと思っていて、当時全盛だったモダニズムに対するアンチというか、横尾(忠則)さんみたいにドロドロした日本的情念を形にした、つもりでした(笑い)。
自分が社会の底辺のマイナー街道を歩いてきたから、とにかくマイナーなものをメジャーにしたくて。エロもそうだしパチンコもそう。面白いのは裏が表にひっくり返ると途轍もないパワーを生む時があるんですよ。自殺の本なんて不謹慎だと世間は言うかもしれませんが、せっかく自殺したのに見向きもされない方が僕はかわいそうだと思う」