韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は、世界各国の首脳と会談するたびに「日本の歴史認識」を俎上に載せようとする。その新たなターゲットとなったのがロシアだ。プーチン大統領は韓国の“告げ口外交”にどう反応したのか。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が解説する。
* * *
11月13日、プーチン露大統領は韓国を公式訪問。プーチン大統領は、ソウルの青瓦台(大統領府)で朴槿恵大統領と会談した。会談終了後、両首脳は合同記者会見を行ない、共同声明を発表した。
〈声明には「(韓露)双方は最近、歴史に逆行する言動が障害となり、北東アジア地域の強い協力潜在力が実現しないことに関し、共同の憂慮を表明した」との異例の文言が盛り込まれた。名指しこそ避けてはいるものの、「歴史に逆行する言動」をしているというのは日本を指していることは明白で、背景には韓国側の強い意向があったことがうかがえる。〉(11月14日付、産経新聞)
産経新聞が指摘している箇所は共同声明の第33項冒頭で、ロシア語から直訳すると次のようになる。
「双方は、歴史の車輪を逆転させることを目的とする声明や行動の影響を含めた現在生じつつある障害のために、北東アジアに存在する協力の巨大な潜在力が完全には実現できていないことに憂慮を表明する」
北東アジアとは、具体的にはロシア、中国、北朝鮮、韓国、日本を指すので、この憂慮が文脈からして、日本に向けられていることは明白だ。しかもここで「憂慮」と訳したロシア語「オザーボーチェンノスチ」は、不安や懸念を指す、かなり強い言葉だ。外交の世界で、友好国に対しては通常用いられない。この箇所だけを読めば、韓露首脳が反日宣言を行なったと解釈することも可能だ。
プーチン大統領は、これまで日本との関係改善に意欲的だった。それが今回の訪韓で、韓国と提携して反日統一戦線の一翼を担うようになったのであろうか。そのように受け止めると事柄の本質を捉え損ねるというのが筆者の分析だ。
こういう時は、プーチンの言葉だけでなく、行動からもメッセージを読み解くことが重要になる。プーチンは、韓国の態度に満足していない。11月14日、韓国の『中央日報日本語版』(電子版)が〈プーチン大統領が「遅刻」、首脳署名式と記者会見ずれこむ〉と題して興味深い情報を伝えた。
〈訪韓したプーチン大統領は、朴大統領との首脳会談を控え30分遅く会談会場の青瓦台(チョンワデ、大統領府)本館に現れた。当初プーチン大統領は午後1時に到着し午後1時5分から朴大統領と単独首脳会談をする予定だったが、実際の会談は午後1時30分ごろに始まった。1時間ほど予定された首脳会談も2時間近くに増え午後3時30分まで続いた。
そのため両国首脳協定署名式、共同記者会見などの予定がずれこんだ。プーチン大統領の“遅刻”は首脳会談前の日程のためだった。プーチン大統領はソウル市内のホテルで開かれた韓ロビジネスダイアログ開幕式に出席して演説したのに続き、ロシア伝統格闘技のサンボ関係者らとも会った。その影響で午後3時15分に予定された首脳昼食会が1時間30分遅れの午後4時45分に開かれた。〉
外交常識に照らして、公式首脳会談に30分近く遅れるのは、きわめて非礼な行為だ。事実韓国では、プーチンは非礼であるとの批判が巻き起こっている。