作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が今クールのなかでも「大収穫」と振り返る作品。でもひとつだけ残念な点があったようで。
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草なぎ剛と北川景子主演のドラマ、『独身貴族』(フジテレビ系木曜日夜10時)。もはや12月19日の最終回を残すのみ。平均視聴率は2桁を維持し、ジワリジワリと尻上がりに。キムタクの『安堂ロイド』のまさかの下落傾向とは対照的。草なぎくんがキムタクを凌駕する結果になっています。
それもそのはず、本当によくできている恋愛ドラマです。登場人物は、映画制作会社「キネマ・エトワール」社長の星野守。演じるのは草なぎ剛。彼は映画、食、靴とこだわりまくる、まさしく独身貴族。
そして駆け出しの脚本家・春野ゆき役に北川景子。三角関係になるモテ男には、社長の弟・進を演じる伊藤英明が。
「家柄や身分を超えた純愛」「三角関係」「サクセスストーリー」といった、実に古典的で、言ってみればわかりきった筋の寄せ集めなのに、乾いた心が潤される。まさしく「夢見る時間」。ロマン溢れる別世界へと、連れて行ってくれる。ああ、これぞドラマの神髄。
おそらく、ドラマの監督や脚本家など制作陣の中に、映画&ドラマに対する「リスペクト」と「愛」が充満しているからでしょう。それは感心するほどに。
ドラマのオープニングは毎回、名俳優や名監督の名言集から紐解かれていく。名映画のセリフ、名シーン、映画のサントラのメロディ。随所に仕込まれた映画へのオマージュ。それがとってもオシャレに仕上がっている。
ドラマの筋はきっちり作った上で、映画に関する「引用」がさりげなくあちこちに配されているのです。
例えば……主人公たちが好きな映画として話題にする『あじさい』。当然ながら、視聴者はソフィア・ローレン主演の名作『ひまわり』を連想します。いったん『ひまわり』について思い出すと、かつて見た時の感動が自動的に想起されて、それがこのドラマの上に切なく被さり、ますます見る側の感情は高まっていく、というわけなのです。
細かな仕掛け&発見。「あっ、これは…」と発見してつい、嬉しくなってしまう。視聴者が、映画の知識や映画にまつわる想い出をたくさん持っていればいるほど、ドラマが何倍にも楽しめるという構造。その意味で、上等な「大人の娯楽」になっています。