「新疆ウイグル自治区では、漢族(中国人)の公安(警官)は常に銃を携帯し、不審者だとみなすとウイグル族住民を尋問し、自らの判断で逮捕、射殺することもできる。まるで無法国家だ。同じ公安職員でもウイグル族は銃を持たせてもらえず警棒だけ。少数民族は2等市民扱いだ」
世界ウイグル会議(WUC)副総裁で、日本ウイグル協会会長のイリハム・マハムティ氏はそう憤る。ジャーナリストの相馬勝氏がリポートする。
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2013年6月26日早朝、自治区南部のピチャン県ルクチュン鎮(村)で出動した武警がヘリコプターで機銃掃射を繰り返し、住民35人が死亡した。また中国当局は発表していないが、8月8日未明に自治区南部のアクス地区で、公安が無差別に発砲して住民50人以上が死傷した。
さらに8月21日。やはり自治区南部カシュガル近郊の街で、ヘリコプターで巡廻していた武装警察部隊が礼拝堂周辺に集まっていた住民20数人を発見。ヘリが機銃掃射したので住民は礼拝堂に逃げ込んだところ、地上部隊が激しい攻撃を開始。礼拝堂の住民は全員死亡した。
それらの惨劇は13年4月から急増している。発表されただけでも死者は140人以上。発表されていない8月の事件を加えると200人は下らない。毎月平均40人もの市民が死ぬ現状は、もはや内戦状態と言っていい。
さらに異常なのは身柄拘束者の数だ。WUCによると、今年3月以降、確認されただけでも300人に及ぶ。ネット上に出回る未確認情報を含めると500人以上になる。もちろん拘束されれば拷問や虐待を受けることになる。
拘束者の大半は釈放されておらず、生死もわからない。まれに釈放されるケースは、精神に異常を来して会話ができないなど日常生活に戻れない者が大半だ。それらの拘束経験者は、突然心臓発作で死亡する例が多いという。拘束が想像を絶する恐怖と肉体的ダメージを与えていることは想像に難くない。
米政府系のラジオ「自由アジアの声」などによると、10月の北京での自爆テロ事件以降、78人が指名手配され、200人以上が身柄を拘束されたというが、それらの人々は「主犯」とされた3人や「協力者」5人の親戚などで、捜査のためというより口封じや批判封じと見られている。
中国当局は3人がどのような動機で犯行に及んだのかなど事件の詳細を明らかにしていない。これが「テロ事件」であり、彼らの背後には「テロリスト集団がついている」と繰り返すだけだ。
しかし、3人は老婆と夫婦であり、老婆は夫の母親で、妻は妊娠していたという情報もある。「母親や妊娠している妻を巻き添えにして自爆するというのは、何より母を大切にするウイグル人の文化や伝統に全く反しており、当局の発表の信憑性は低い」とイリハム氏は指摘する。
確かに中国当局の発表には“ウイグルの恐ろしいテロリスト集団”を印象付ける嘘があちこちに見られる。
公安や武警、軍の一部も管轄下に置く党中央政法委員会の孟建柱・書記が「事件の背後には新疆ウイグル自治区の独立を主張するテロ組織『東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)』が暗躍している」と断定したことは、まさに語るに落ちる。
「馬鹿げている。ETIMなる『テロ組織』はこの世に存在しない」(イリハム氏)