タレントの大泉洋氏を世に送り出したことで知られる北海道テレビ(HTB)のバラエティー番組「水曜どうでしょう」。レギュラー放送終了から、かれこれ11年も経つのに、いまだに絶大な人気を誇っている。
今年は2年半ぶりとなる新作『初めてのアフリカ』が放送されたほか、夏には札幌に5万人を集めたイベント「水曜どうでしょう祭UNITE2013」が行われるなど、水どうファンにはたまらない1年になった。
そこで、番組の生みの親である“藤やん”こと藤村忠寿氏(HTBエグゼクティブディレクター)に、「今年、印象に残っているニュース」について聞いてみた。
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今年のニュースを振り返ってみて、僕が一番印象に残っているのは「宮崎駿さんの引退」でしょうか。
宮崎さんは近年、作品を作るたびに「これが最後」というようなことを言っていました。「そんなこと言わずにまた作ってください!」と思いつつも、「うん、そうだよな、これが最後かもしれないな」と、すでに多くの人が思っていたんじゃないでしょうか。それだけ宮崎さんの作品は、渾身の力で作られていた、ということを多くの人たちが感じていたんだと思います。
渾身の力を出す、ふりしぼる。宮崎さんは、作品を作るたびにそれを繰り返し、作り終えるたびに「もうこりごりだ」って思っていたんだと思います。精根尽き果てるまでひとつの作品作りに没頭する。そのためには、雑事に振り回されず、雑音を断ち、一点を見つめ続けなければいけません。
最後の長編アニメとなった「風立ちぬ」の制作過程を追ったドキュメンタリー番組の中で、宮崎さんは自分に言い聞かせるようにこう言っていました。「わからないやつは見なくていい。これは、わかってくれる大人に見てほしいんだ」と。それはまさに雑音を断ち切ろうとする宮崎さんの姿勢でした。
「風立ちぬ」の中で、病人の前でタバコを吸い続けるシーンを問題視する人がいました。そういう意見が出るだろうことは、宮崎さん自身最初からわかっていたに違いありません。でも、ひとつの愛情表現としてそれは必要だった。
ましてや零戦を作った人を主人公にした時点で、今回の作品は多くの雑音が入ってくるに決まっている。「わからないやつは見なくていい」という言葉は、宮崎さんの、ある種の虚勢であり、自分を奮い立たせるための言葉であったのだと思います。