ぼったくりの被害が後をたつことはない。つい先日も筆者の友人が歌舞伎町でぼったくりの被害に遭ったばかりだ。なぜ人類はぼったくりの被害に遭い続けるのであろうか…。かくいう私もぼったくりに遭った一人である。しかも国外で、だ。これから国外に行かれる方もそうでない方も、私の不幸話を蜜の味だと思ってご賞味いただければ幸いだ。
いま、海外でもっともぼったくり被害に遭いやすい都市として、多くの人が挙げるのが『上海』『イスタンブール』である。クレジットカード会社の保険担当の方も、この2都市は近年急増しているので警戒してほしいと言っていたほどだ。
ちなみに、私は後者で見事に被害に遭った。海外へは一人でよく出かけていたこともあり、“旅慣れている”と自負していたが、まさか自分がそんなみっともない被害に遭うなんて…今では、うぬぼれであったと自戒している。
その日は、私がイスタンブールのアタチュルク国際空港からススルタンアフメット(旧市街地)に向かっているトルコ初日に訪れた。トラム(路面電車)を乗り継ぎ、旧市街地に到着したのは、夜のとばりが落ちようとしている19時すぎ。石畳の街並み、坂町が織り成す景観に酔いしれ、「今日は飲みに行っちゃうかも♪」なんて浮かれていたことを思い出す。
まさかこの数時間後、人生初のぼったくりを経験することになろうとは夢にも思わずに…。
【恋人にフラれたという男から声をかけられる】
イスタンブールへは1泊の滞在予定であったため、宿は飛び込みで探すつもりだった。出国前にいくつかあたりを付けていたのだが、週末ということもあり、すべて満室だった。しかし、かつてインドのバンガロールで、15軒連続満室(有名大学の入試テスト日に重なったため、安宿~中級ホテルが軒並みインド人家族で埋め尽くされていた)という体験をしていたこともあり、さほど気にせず宿探しを続けていた。
と、そこへロキと名乗る男が、「宿探しなら俺が手伝ってやる」と声を掛けてきた。もちろんガン無視だ。こういう輩は決まって胡散臭い。だが、悲しいことにいっこうに宿は見つからない。しつこく声を掛けてくることもあり、ものは試しとロキと名乗る男に、宿情報を聞いてみると、これまでの苦労が嘘のように掘り出しの宿をなんなく見つけることができた。
軽く身の上話をすると、イタリアから旅行で来ていて、明日彼女と合流するはずだった、という。「だった?」と私が尋ねると、ロキは「些細な口論から、電話口で大喧嘩に発展してしまった…多分、別れることになるだろう」と力なく漏らした。
文章をドラマティックに仕立て上げることに興味がないので、ネタバラシをあえてこのタイミングですることにする。旅行者という設定も、恋人にフラれたという設定も、相手を安心させ同情させる手段にすぎない。もっと言えばこのパターンは、イスタンブールで流行っているらしい。今思えば、落ち込んでいる彼の演技は大根役者のそれであった。
そういうわけで、そのときの私は、「元気出せよ。軽く一杯飲みに行こうぜ」と、まさに飛んで火にいる夏の虫状態で、ホイホイと彼と飲みに行くことを選んでしまった。私は海外で飲みにいくときは基本として、自分で選んだ店にしか入らないことにしている。
この日も同様に自らで選んでみたはいいものの、ロキはことごとく「刺激が足りない」と首を縦に振らない。彼がチョイスした店は、電灯が煌々とする明るい路地に面した2階に位置するバーであった。店内を試しにのぞくと、個室で区切られているわけでもなく、窓も開放している内観であったため、「ギリギリセーフかな」と私は判断した。裏を返せば、どの瞬間にギリギリアウトにひっくり返るか分かったものではないので、私は入店を渋り続けた。
一方で、「彼女とケンカしてつらいんだ」というお涙頂戴話を聞いていたことと、宿を見つけてもらった謝意も感じていたため、「2~3杯飲んで帰ろう」という気持ちもあり、最終的に悪魔にささやかれる形で入店を決めた。