天皇が正月をどのように過ごされているか、一般国民はほとんど知らない。正月にはどのような物を召し上がっているのか紹介しよう。
元日の9時30分に「晴の御膳」という行事がある。「晴の御膳」は一説にはおせちのルーツともいわれるが、一般的なおせち料理とはまったく異なる。
この儀式のために用意される膳はメニューが決まっていて、勝栗や干しナツメなどの木の実や果物、塩や酢などの調味料、鮎白干しなどからなる。ただし、天皇は皿に箸を立てるだけで、実際に召し上がることはない。かつては食すこともあったようだが、すでに後醍醐天皇の時代には「天皇が箸をならした」との記録があり、形式的な儀式となっている。
では、実際に両陛下が元日の朝に召し上がるのは何かというと、「御祝先付の御膳」と呼ばれる料理だ。
宮内庁元大膳課職員によると、膳の内容は毎年同じだという。本膳で、小串鰤焼き、浅々大根、そして菱葩(ひしはなびら)というお餅。二の膳で、割伊勢海老、福目煮勝栗、そして、キジの胸肉を焼いて熱燗を注いだ雉酒である。
「特徴的なのは菱葩で、直径が15センチほどの薄い円形の餅の上に小豆色の菱餅をあぶって重ね、その上に砂糖煮のゴボウと甘練りした白味噌をのせて餅を二つ折りにしたものです。これを美濃紙で包んで膳に載せています」(元職員)
ご夕食には日本の伝統的な慶事の食膳「御祝御膳」を召し上がる。そのほかは我々が食べている正月料理に近いものになるという。
「正月にご家族がお揃いになられたときは、おせち料理に近い和食メニューを召し上がっておられます。黒豆、数の子、ごまめ、伊達巻、紅白かまぼこ、紅白なます、八つ頭の旨煮、昆布巻き、栗きんとんなど。三が日の間、夜は白味噌仕立ての丸餅が入ったお雑煮も召し上がられます」(同前)
白味噌仕立てで丸餅というのは、関西風の雑煮である。明治維新で天皇が京都から東京に移って150年近く経つが、天皇家の雑煮はいまも関西風なのだ。