ライフ

【著者に訊け】安部龍太郎 戦国史描いた『五峰の鷹』を語る

【著者に訊け】安部龍太郎/『五峰の鷹』/小学館/1890円

 肝心なのは使い方や戦い方。火薬や鉛を手に入れる「ルート」の構築にあった。「1543年 鉄砲伝来」と、教科書なら一行で済まされる歴史的転換点が、安部龍太郎氏の直木賞受賞第一作『五峰の鷹』では、手に汗握る人間ドラマとして描かれる。なぜそのポルトガル人は種子島に漂着し、なぜ信長は鉄砲隊を効果的に使って戦のあり方そのものを変革できたのか……。

 本書では主人公〈三島清十郎〉の半生を軸に海賊や南蛮船が行き交った往時の海を再現。室町~戦国前夜にかけての「なぜ」に迫る。この清十郎、石見銀山の利権を巡って父を殺され、母を奪われた元山吹城主の若君だった。お家再興と母の奪還を悲願に塚原卜伝の下で剣を磨いた彼は、五島列島や明国・舟山諸島へも赴き、博多の豪商・神屋寿禎や明の海賊王・王直にも知己を得た。つまり日本が閉じてはいなかった時代の、虚々実々の風雲記である。

 世に歴史として括られる様々な事績を、まず安部氏は「道理」で考えてみる。例えば都を追われた室町13代将軍・足利義藤(後の義輝)らの京都奪回作戦に若き日の信長らが加勢し、三好勢をひとまず退却させた「第十章 中尾城の攻防」。〈物干し竿のような槍〉で敵方との距離を三間に保ち、鉄砲で確実に仕留めるその戦法を、この時17歳の信長は19歳の清十郎に学んだ。

 一方、清十郎はその陣形を〈有能な大名を後押しして天下を獲らせる〉べく暗躍するポルトガル商人、メンデス・ピントに学び、実戦に用いて有効性を確かめた。安部氏はこう語る

「清十郎や後に彼と結ばれる寿禎の娘〈お夏〉は虚構の人物。一方、寿禎とともに石見銀山を開発した清十郎の父・三島清左衛門(実名は清右衛門)や、種子島にポルトガル人を連れて行った王直は、実在の人物です。

 例えば安土に残る5メートル超に及ぶ長槍は、敵から鉄砲隊を守るために使ったとしか考えられない。従って鉄砲隊と長槍隊を組み合わせた信長軍の手本は、当時最強のスペイン陸軍にあったということになる。その歴史的事実を、私はピントと清十郎の交流を通して描いたわけです」

 また日本の刀鍛冶の技に注目し、種子島を鉄砲製造の拠点にした王直の着眼点や、〈灰吹き法〉という銀の精錬技術を開発し、世界の3分の1もの産出量を誇った石見の銀を一手に商った寿禎のビジネス戦略にしても、現代の目で評価できる点は評価していいのだと。

「ところが江戸時代の鎖国史観や士農工商史観は、戦国史から本来の躍動感を奪い、外国人や商人が歴史を動かした事実を消し去った。大航海時代だったこの時期、世界とどう渡り合えるかを真剣に考えた人々の苦悩や目的意識を学校では何一つ教えないでしょう? これでは真の国際感覚など育つはずがありません」

 時は室町末期。朝廷から下された〈金掘り免許状〉と母を賊に奪われ、額と心に傷を負った若き清十郎が、王直から〈蜂熊鷹〉の旗を許されるまでの成長を描く物語は、恋愛小説や剣豪小説としても楽しめる。

 脇役も豪華だ。曇りない目が印象的な10代の信長や、若き剣豪将軍・義輝。男色に耽る大内義隆に、悩める重臣・陶隆房や老獪な毛利元就。六郎太こと後の細川幽斎は、京・兵法指南所以来の清十郎の大親友である。

 そして敵役の〈石見玄蕃〉なる人物は、ある有名武将の前身(!)。元は暗い地の底で銀の掘削に従事する〈穿通子〉だった彼は、各大名が石見を我が物にすべく睨み合う中、免許状を力ずくで奪い、のし上がった、下剋上の象徴だった。

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン