日本人の2人に1人ががんに罹る時代だ。がんの複数回の発生、転移、手術を繰り返す人も少なくない。長期にわたる闘病に屈せず、仕事にも打ち込みながら、病を克服してきた人たちに共通する「秘密」とは。
「最初にがんが見つかったのが55歳の時。もう65歳になったんだけど、この10年間で何の心配もしないで年を越せたのは、この正月だけ。振り返ると、いつも年明けに手術の予定があったり、がん検診の結果待ちがあったりで、不安を抱えながら年末年始を過ごしてきました。今年は見事にクリアしちゃいましたね」
そう破顔するのは、元東京新聞編集委員の村串栄一さんだ。村串さんは検察事件取材の第一人者ともいえる敏腕記者だ。リクルート事件や金丸信・自民党副総裁の脱税事件などで数々の特ダネをスッパ抜いてきた。著書『検察秘録』(2002年、光文社刊)は、事件取材に携わる若い社会部記者の必読書になっているほどだ。
そんな村串さんが昨春から50回にわたって東京新聞に連載してきたのは、得意の事件記事ではなく、自身のがん体験について。昨年11月には、連載をまとめた著書『がんと明け暮れ』(弓立社刊)を上梓した。
驚かされるのは、村串さんの身体から見つかったがんの数だ。
「2004年4月5日に赴任先の金沢の病院で胃がんの告知を受けました。それから東京・築地にある国立がんセンターで検査をし、幸か不幸か、さらに食道に3か所見つかった」(村串さん)
がん細胞は表面(粘膜表層)から発生し、徐々に深いところに拡がっていく。それがリンパ節に及ぶと、他の部位に転移する可能性が出てくる。この時に発見されたがんは早期だったので、まずは表面を切除する内視鏡手術を施し、さらに検査後、深い組織までの浸潤が疑われた胃を3分の2摘出する手術を受けた。村串さんが述懐する。
「それで一件落着、と思ったら、翌年にまた食道に1か所出ました。それも内視鏡で取った。がんはよく5年再発しないと完治といわれますが、それで振り出しに戻ったわけです。 続いて2008年初めに食道と咽頭にまた出た。これで5回目の入院。さらにその後、食道に2か所見つかり、手術しました」