アップルではスティーブ・ジョブズ氏の信頼を得て、世界戦略の策定とマーケティングに大きく貢献した実業家の前刀禎明さん(55才)。それ以前は、ソニー、ウォルト・ディズニー・ジャパン、AOLジャパンを経て、ライブドアを創業とジャンルの違うさまざまな企業を経験してきた。そんな前刀さんに、学生は仕事をどう選ぶべきかを聞いた。就活に悩む学生は、いかにしてやりがいのある仕事を見つけたらいいのだろうか?
――現在は人材教育に関する仕事に携わっている前刀さんから見て、今の学生について思うことは?
前刀:今は知識が豊富でそつがない学生が多いですね。インターネットでいくらでも簡単に情報が取れるので、同じ情報を共有しがち。われわれの学生時代には、個性が強くてとんでもないこと言う学生がいましたよ。というのは、その情報が現実的かどうかも調べる術がなく勝手に妄想できたからです。今の学生は、あらゆる情報にアクセスできるがゆえの不自由さがあります。ネット断食じゃないですが、すぐにネットで調べる前に考えるということを絶対やったほうがいいと思います。自分がいろんなことを想像する力がつくので。今はそれが本当になくなっていると感じています。
例えば、少し前に雑誌や書籍で流行った“スタンフォードの~”や“ハーバードの~”というマジックワードに傾倒する学生が多かったですが、学生に限らず、何かこれがいいと言われたことに対して、みんなが同じ方向を向いて取り組んでしまう。ぼくが“Think different=自分らしくあれ”と言うのは、あくまでも個人が自分の価値観を大切にして生きる。その結果、世の中から求められる自分ならではの強み、“スイートスポット”ができることを意識してほしいからです。
――ある部分では、外部の情報から離れるのも必要だということですね。
前刀:必要な情報なんてそんなにないですよ。人の意見に毒されないこと。それはある意味訓練、意識ですね。もうひとつは、調べることによって物事を効率的に進められますが、無駄骨折りたくないとか、あんまり効率を重視しているのもよくない。今、みなさん失敗をすごく嫌がりますよね。失敗は、確かにその時はマイナスな出来事かもしれないけど、失敗してもいいじゃん!と恐れない気持ちが大事です。最近の悲しいトレンドですが、就活に失敗して自殺する子がいますね。考えられないことですが、それはそれまでに失敗したことがないからこそ、ショックが大きいのだと思います。
――確実に求められ、自分の強みを活かせるスイートスポットの見つけ方とは?
前刀:世の中に求められてるものと自分の強みが重なるところって絶対にあるんですよ。他の人とも重なってしまう濃い部分は、激戦のレッドオーシャン。ここを追いかけてもしょうがないんです。溢れている情報は、ここは誰も見てないところだよね?というふうに、物事を削ぎ落していくために使ったらいい。そうするとスイートスポットが見えてくる。強みを知るには、まず自分を知ることです。
――見つけられない人はどのようにしたら?
前刀:自分がやっていて楽しいと思う瞬間や、感動する瞬間。それは、自分の価値観です。そこが意外と強みのきっかけになっていくんです。なぜ見つけられないかというと、自分の素直な感性や感動したことよりも、世間一般でいわれていることを優先するから、自分がどんどん見えなくなっていく。才能のない人なんていない。人生で身に降りかかってくる運、不運だって人と大差ない。どう活かすかですから。