現在、靖国参拝などをめぐり安倍晋三政権が置かれている危機的な国際情況を、日本人は分かっているのか──。外務省OBの孫崎享氏(元外務省国際情報局長)、天木直人氏(元外務省駐レバノン大使)の2人が緊急対談した。
孫崎:先日、鳩山(由紀夫)元首相に会ったんですが、鳩山氏は年末にルース前駐日大使と会談して、こんな話を聞いたというんです。「日本では靖国参拝についてアメリカが何も警告していないと受けとられているが、決してそんなことはない。我々はダメだと何度も言ってきている」と。ルースは怒りに満ちた話しぶりだったそうです。
昨年10月にヘーゲル(米国防長官)とケリー(米国務長官)が来日したときに、靖国でなく千鳥ケ淵の戦没者墓苑に行っていますが、これも「靖国に行くな」という明確なメッセージでした。
天木:日本のメディアのなかには、アメリカの安倍批判はそれほど強くないなどと書く報道もありますが、大きな間違いです。
孫崎:安倍首相やその側近はアメリカの反応を重く捉えていないか、あるいは、外務省が現在の日米関係の状態について正確な情報を伝えていないか、どちらかではないか。
天木:外務省は伝えているはずですよ。安倍首相が真摯に聞かなかったか、官僚が強くはっきり言わなかったかのどちらかでしょう。
いまの安倍政権は人事に関して絶大な権限をもっていて、菅官房長官も新春の対談(元日付読売新聞)で人事がすべてだと明言している。だから、殿のご乱心を羽交い締めしてでも止める気概のある者がひとりもいなかったということです。
マスコミも問題で、新聞社の幹部は安倍首相とメシを食っているばかりで、「日米関係を損ねてはいけない」と詰め寄らないから、首相も気がつかないんです。
孫崎:しかし、これは本当に深刻な問題ですよ。ちょっとコミカルなネタですが、中国の駐英大使が「日本はハリー・ポッターに出てくるヴォルデモートという悪役と同じだ」と述べたと、英紙の『デイリーテレグラフ』が伝えたんですが、すぐにこれを追っかけて、アメリカの外交専門誌『フォーリンポリシー』が「安倍首相はヴォルデモートか」という記事を載せている。アジアでは中韓だけでなく、シンガポールなどでも反発が起きています。