舞台俳優として若き日の蜷川幸雄らとともに劇団を旗揚げした俳優の蟹江敬三は、映画やドラマ、にっかつロマンポルノなど多岐にわたって活躍してきた。故・勝新太郎の監督デビュー作に主演した当時や、「強姦の美学」とまで異名をとったロマンポルノ出演時の思い出について蟹江が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が解説する。
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1960年代終わりから1970年代初頭にかけ、蟹江敬三は蜷川幸雄の演出の下、アングラ演劇で若者たちから人気を博していた。その一方、映画やテレビドラマでは数多くの脇役・悪役をこなしていた。当時の映画スター・勝新太郎はそんな蟹江を高く評価しており、自らの作品に何度も起用している。勝の初監督作『顔役』(1971年)も、そんな一本だった。
「『顔役』が勝さんとの最初でした。素敵な人だと思いました。
僕は殺し屋の役で、床屋でヤクザを殺すシーンがあったのですが、椅子に横たわっている人がいて、『その陰から顔を出してニッコリ笑え』と勝さんは言うんです。笑いながら殺すというのが新鮮でしたね。それから、印象的だったのは、『録音部を困らせる喋り方をしろ』ということです。いい声で明瞭にセリフを言うんじゃなくて、ボソボソっとね。録音部が『こんなセリフ、どうやって録るんだ』と言いたくなる喋り方をしろ、と。
台本はなくてアドリブばかりでした。撮影をする日になって『このシーンはこうなっているけど、お前、なに喋る?』と聞いてくる。それで少しだけ打ち合わせをしたら、もう本番です。こちらは一瞬のうちに『こういうセリフを喋ったらどうかな』と考えるわけですから、瞬発力を鍛える訓練になりました」